2015年5月26日火曜日

心理社会的アプローチ psychosocial approach

心理社会的アプローチ psychosocial approach


 「援助関係」の形成とコミュニケーションを通してのクライエントのパーソナリティの変容、そしてクライエントを取り巻く環境(状況)の機能を高め、人と環境(状況の)相互作用の機能不全を改善し福祉・生活課題の改善を目指すソーシャルワークの介入方法です。
 調査→社会診断→社会治療という現代の個別支援のインテーク→アセスメント→プランニング→援助の実施という型の原型となる過程を提示しました。ワーカーとクライエントの「関係」とコミュニケーションが社会治療の核となると考えた点はその後のケースワーク技術論に深い根を下ろしています。

  精神分析理論や自我心理学に強い影響を受けた ハミルトン(G Hamilton)らの診断主義(diagnostic)と言われるクライエントを力動的に捉えて援助しようとするアプローチが、後にホリス(F Hollis)によって「心理社会的アプローチ」として世に知られるようになり広まりました。ケースワーク理論の代表選手と言っても過言ではありません。

 ホリスは自身の論文のなかで、「今日の心理社会的(アプローチの)立場は、ケースワークに対するシステム理論的アプローチを目指している」と述べています。注1)心理社会的アプローチにおける診断と処遇の対象になるのは、「状況のなかの人間のゲシュタルト(the person-in-situation gestalt)」であるとされています。クライエントとクライエントの外界との相互作用のコンテクストの有り様をみるのだと宣言しています。
 しかし、その社会システムのなかのサブ・システムである個人のパーソナリティ・システムの力動性を理解する最大の論拠はフロイト派といわれる自我心理学の諸理論においていることが診断派、心理社会的アプローチの大きな特徴です。

 また、ニード論においても心理社会的アプローチは独特の言い方をしています。心理社会的アプローチが取り使うクライエントの「ニード」は社会的ジレンマとして表出されるというのです。クライエントとクライエントが関わっている他者との相互順応、生活の諸欲求を満たす社会資源との相互順応この相互順応の不具合が社会的ジレンマ」であり、これが「ニード」として取り扱われるといいます。

心理社会的アプローチでは、「援助関係の形成」とそのコミュニケーションが重視されています。クライエントになる可能性のある人が「クライエントになる」プロセスが重視されます。このアプローチではワーカーとクライエントが協働して洞察的なコミュニケーションを行うことを前提としますから、クライエントが援助プロセスに主体的に参加することが前提になります。そのためにある程度クライエントの言語的なインテリジェンスや支援を受ける動機つけが前提条件となります。初期段階では以下のことが重要視されています。

①なぜクライエントが援助機関にコンタクトしているかのクライエントの理解
②クライエントがワーカーの援助を利用できるような関係の成立
③クライエントの主体的参加
④処遇の開始(契約あるいは同意)
⑤診断と処遇のための情報収集

 ホリスの方法になってからは、「人と環境の全体の関連性」が強調され、ソーシャルワークが対象としている問題や課題は、クライエントが抱える個人の病理から発生しているものだけではなく、環境からの圧力だけが作り出しているのでもなく、両者の相互作用の結果であるというものの見方が強調されるようになりました。
 フロイト派のパーソナリティ理論に準拠しているとは言ったものの、その処遇においてはイド・自我・超自我などのパーソナリティシステムや特に無意識についての概念を処遇において「表立って扱う」ことは少なくなりました。
 とはいえ、自我心理学や力動心理学の概念の使い手であることは求められています。自我心理学はクライエントが自分の困難や問題に対して行おうとする行動などの程度や適切さを評価するために防衛などを含んだ自我の機能を理解して援助するために使われるようになりました。


注1)Florence Holice : The Psychosocial Approach to the Practice of Casework , Theories of Social Casework The University of Chicago Press 1970  :F ホリス「ケースワーク実践における心理社会的アプローチ」 『ソーシャルケースワークの理論-7つのアプローチとその比較』ロバートW.ロバーツ/ロバートH.ニー 久保紘章 訳 川島書店 1985


<読んでおくべき本>

Gordon Hamilton "The Underlying Philosophy of Social Casework" 1941

フローレンス ホリス著『ケースワーク-心理社会療法-』黒川昭登・本出祐之・森野郁子訳岩崎学術出版 1966

2015年5月24日日曜日

システムズ・アプローチ

システムズ・アプローチ
 
 システムズ・アプローチは人や集団の内面だけではなく、環境や周囲との関係性を説明しようとする点においてソーシャルワークの諸理論と親和性があります。システムズ・アプローチは主に1980年代に欧米から導入されたシステム論による家族療法を基盤としながら発展し、近年は人間関係や組織のあり方を見つめ、介入する方法として応用されています。

 原因と結果という二項的なあるいは直線的な「ものの見方」をする従来のアプローチに比べて、円環的と言われる「ものの見方」をするシステム論は、これまでの心理療法やカウンセリングそしてソーシャルワークの方法論にその「物事の捉え方」の違いという点で衝撃を与えました。

 何か「問題」(心理的な悩みや福祉的な課題)が生じているときに、その人や集団の内面や資質に焦点をあてるのではなく、その集団や人の中で「どのようなことがどのように『問題』として扱われているか」、そして「すでに問題解決に動いている働き(相互作用)」が扱われることになります。クライエントがどのような「枠組み(flame)」でその事象をとらえているか「自分自身」「事象について」「人間関係」「どのような経験」「どう取り組んでいるか」などを読み取っていきます。問題として語られていることの中でのそれぞれの役割や影響など「コミュニケーション」や「事象」のパターンを円環的に観察します。

 原因⇄結果の探索ではなく、リダンダンシー(redundancy)と言われる事象やコミュニケーションの連続性(パターン)や力動性(ダイナミック)を理解することになります。
 家族などの組織や小集団には問題が発生した時にすでに問題解決に向けて動いている何か(相互作用)があると仮定して、しかし解決されていないということはそれを維持するパターンの繰り返しが行われいる可能性があり、それを維持させている個々による意味づけ(枠組み)や相互作用の連鎖があると考えるのです。そしてその相互作用をつかって問題の解消に当たろうとする働きかけということになります。

 個人に対する医学モデルや自我心理学などをベースにしたセラピューティックな心理療法やソーシャルワークを行ってきた人たちには、この「ものの見方」の変更が難しいようです。
 治療者あるいはワーカーが持っている「枠組み」や「意味づけ」もこの相互作用へのアセスメントや介入に大きく影響を与えるので介入者自身の「枠組み」が全体にどのように影響しているか俯瞰してみることも重要になります。治療者やワーカーがこのクライエントや集団の枠組みに関心を持ち、観察し、理解するプロセスをジョイニング(joining)と言ったりしています。

 このシステムひいては問題に影響を与える介入の原理としてサイバネティックスの認識論(sybernetics)があります。有名なものに「ホメオスタシス(homeostasis)」という家族などの凝集性の高い人間関係においてはこの形態を維持し、逸脱を解消する仕組みが仕込まれているとするものがあります。これらに加えて「システム変化させるためにはシステムの状態維持に反するものも取り込むことがある」とするものなど追加の新しいサイバネティックスの考え方が投入されていたりします。

 介入としては、この「枠組み」確認、パターンの確認を行い、なんらかのコミュニケーションや事象の連鎖を変える介入が行われます。
 家族療法の流派で有名なMRIのアプローチでは、解決に向かって行われてる行動のなかで、実際には解決に結びついていない行動を制限して、そのパターンの連鎖を止めるというパラドクスというシステム変容の技法が紹介されています。

 このようなコミュケーションの特性「パターン」・「意味づけ」・「枠組み」を理解し
その相互作用を円環的質問(circular question)や観察によってシステムをアセスメントする方法の対象は家族から職場や組織や地域活動などミクロからメゾレベルにに広がりを見せています。


<読んでおくべき本>

遊佐安一郎 「家族療法入門ーシステムズアプローチの理論と実際」星話書店 1984

吉川悟「システム論からみた援助組織の協働 組織のメタアセスメント」金剛出版 2009



 

認知行動療法 cognitive behavior therapy

認知行動療法  cognitive therapy


 精神療法のひとつのアプローチとして知られているもので、最近ではうつ病に対するアプローチなどに応用されているようです。また薬物依存など犯罪者更生のプログラムなどで司法の分野でも応用されています。
 病因そのものにアプローチする治療の考え方ではなく、クライエントの思考や認知の「歪み」に対して働きかけて、認知と行動の変容を促していくことに特徴があります。認知行動療法では認知理論や情報処理理論などを使ってその人の認知や思考過程にアプローチしていくのです。
 クライエント自身が抱えている「問題」のうち問題となっている「思考」や「行動」に焦点をあてているわけですから、例えば「うつ病」や「精神疾患」を根本から治療するという戦略ではありません。クライエントの当面の課題や問題に対処する方法をクライエントが自ら習得するというくらいに考えたほうがういいかもしれません。


「悲しい(あるいは不安)」という感情を手にしているのは、「絶対的に悲しい(不安な)状況」があるからではなく「ある状況」に対する「情報処理(思考)」の結果「悲しい(不安)」という感情を手にしている。


 認知行動療法においては、クライエントが認識した事柄が「事実」であるかどうかを最初に問題にすることはありません。実際にクライエントが考え出した(自分の意識の中につくりだした世界)認識に影響を受けて、クライエントの日常の行動や感情は作り出されている、という仮説に基づいて提供される支援的な関わりということになります。うつ病圏の人たちは自身の否定的(ネガティブ)な認知の影響を受けて、社会的に不適切な行動や感情を決めているというふうに考えることになります。

 ひとは現実世界をありのままに受け止めているのではなく、その人なりの要素を通して認知し、受け取っているのだということを理解するように促しています。

 強いストレスなどによって、この認知に偏りが起きているときに、不安が強くなったり、非適応的な行動を起こしてしまったりすると考えていきます。
認知行動療法ではこの「思考」→「気分」→「行動」の悪循環(スパイラル)を課題にしていくのです。

 クライエントに自分の自身の思考や認知のパターンに注目するように勧めます。それからそう考えるように至った訳(根拠や理由)を聞き、その他の考え方の選択肢の可能性をクライエントとの様々な対話法の中から共に見出していく。ノートや思考プロセス票を使ったり、尺度を用いたり治療者によって様々な方法が工夫されている。そこから行動療法的アプローチとして「段階的課題」「スケジュール法」「行動リハーサル」などの手法を取り込んで手に入れる「感情」や「行動」が適応的なものになるように進められていきます。

厚生労働省のホームページにうつ対策として認知行動療法の
治療プログラムが掲載されています。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/01.pdf


認知行動療法は非常に構成・構造化されていることが特徴でプラグラム化されていることに気づきます。精神分析的アプローチのように深層心理を扱うのではなく、常に意識される「思考」を扱うことで、クライエントが自分自身でコントロールすることを可能にしています。しかし自分の「思考過程に気づく」プロセスというのはまた非常に高いインテリジェンスと動機つけが必要に思います。


<読んでおくべき本>

アローン・ベック著 大野裕 翻訳「認知療法-精神療法の新しい発展(認知療法シリーズ)」岩崎学術出版社 1990  Aaron T.Beck" cognitive  therapy and emotional disorders" plume,1979


大野裕 著 「認知療法・認知動療法 治療者用マニュアルガイド」星和書店

2015年5月1日金曜日

ケアマネジメント care management

ケアマネメント/ ケースマネジメント  care management/case management


 社会福祉の方法のなかで方法自体が制度・法律に組み込まれるという運命をたどっている点で特筆に値するアプローチとなっています。
 ケースマネジメントはアメリカでの精神障害を抱える人々へのコミュニティケアが発祥と言われています。精神障害を抱える人々は精神疾患そのものの医療的な問題だけでなく、住宅、雇用、経済、対人関係、家計管理、介護など複合的な生活課題を抱えていて、さらにその相談をするのにも窓口が幾つも存在する状況の中にありました。
 その問題をひとつひとつ調整し、生活環境が安定すれば、かなり重度の精神障害を持つ方でも地域で生活が継続できることがわかってきました。その人が抱えるケアニーズとそのケアを提供する社会資源の組み合わせを当事者と共に考えて提供していく、この手法が有効であるとして広まっていきました。当時のアメリカは多くの精神科病棟を閉じて、精神障害を持つ方たちを地域へ向かわせる政策を取っていましたので、この点でも政策と結びついて誕生・成長していった方法と言えるかもしれません。
 日本におけるケアマネジメントは①ケースファインディング→②インテーク→③アセスメント→④プランニング→⑤契約→⑥サービスの実施→⑦モニタリング→⑧終結ないしは再アセスメント。この一連のプロセス・モデルを使って、人が望ましい生活していく上での支援ニードに対して、支援目標や成果を明らかにしながら、必要な社会資源との結びつきを作っていく、そしてその結果を確認する。このプロセスの繰り返しのことを言っています。
 肝心なことはニードを的確に評価したうえで、「支援目標とその成果」をはっきりとクライエントに伝えて、「合意形成(契約)」をしっかりと図ることにあります。支援者は、自分のマネジメントの成果が何によってわかるか(支援の結果予想)をはっきりとクライエントに伝えて、合意をとる必要があるということになります。そしてサービスを実施したうえでそのサービスの「成果(アウトカム)」が得られたかどうかをモニタリングで確認します。「成果が得られなかった」場合は、ニーズの把握、支援目標の設定、支援方法の選択、成果の設定の何が上手くいってなかったのかを確認する必要があります。これをクライエントとのパートナーシップのもと行うというのがケアマネジメントの方法です。
「モニタリング」とは状況把握ではなく、実施されたサービスの成果や適切さを確認し「修正」を促す行為ということになります。ロングタームケアにおいては、この「修正」のプロセスが何度も何度も繰り返されることになります。

 人の生活課題は多様であり、複数の生活課題を抱えることになります。その複雑さに対応した複合的なサービスをパッケージで提供して、その相互作用的な効果を期待すること、ばらばらなサービスを提供して、場当たり的なことにならないようにサービス相互間の調整をする機能も含まれています。

 「効率的」「無駄を省く」という意味においても優れた方法であり、行政的に好まれる手法なのかも知れません。ちなみに「効率的」とは少ない労力で最大の「成果」を生むという意味で、必ずしも、お金がかからないという意味とは違うそうです。(余談です)

<学ぶべきこと>

 ケースマネジメント、ケアマネジメントは、組織的、制度的な支援方法とよく結び付きます。ケアマネジメントは個別の支援論(ミクロレベルの実践)だけではなく、むしろ組織や地域を(重点)ターゲットとした支援方法(メゾレベルの実践)であるとする考えもあるようです。ケースマネジメントをしっかり学んでおくことは、「組織つくり」や「仕組み作り」に目を向けることになります。「地域ケア」のなかに「ケアマネジメント」が位置付けられることを理解しておく必要があります。

 ケースマネジメントは介護保険や障害者総合支援法など高齢者福祉や障害者福祉領域以外でも、様々な分野で使われている方法です。医療分野でも、診療報酬にも位置づけられた「退院支援」のプロセスはこのケースマネジメントの方法をかなり援用をしていると言ってもいいのではないかと思います。「ケースファイデング」のところでは、どのようなケースを「退院支援」の対象として捉えるのかのスクリーニングシステム、など院内の仕組み作りが問われるところです。「退院支援計画書」はまさに合意形成のプロセスです。正確にアセスメントを行うための多職種連携やカンファレンスの開催、サービスの調整などでは組織やチームをオーガナイズするコミュニケーション能力が必要になります。個々のクライエントの福祉問題解決のために個々のチームを編成することが退院支援のケースマネジメントの大きな部分を占めるということになります。
 現在の退院支援の仕組みの中に「モニタリング」が欠落していることは少し気になります。退院支援の質(退院後の生活の質)の担保が図られたがどうか、支援目標をどう設定し、達成されたかどうか、「退院すること」が目標になっていないか「目標設定」→「モニタリング」を退院支援に取り組む工夫が必要かもしれません。


<読んでおくべき本>
「ケースマネジメントの理論と実際」白澤政和 中央法規  
「ケースマネジメント入門」デビィット マクスリー著 野中猛ほか訳 中央法規 1994
「高齢者ケアのマネジメント論」小山秀夫 厚生科学研究所 1997

2015年4月24日金曜日

コーチング・スキル Coaching Skill

コーチング・スキル Coaching Skill

  コーチングとはアメリカで発達したコミュニケーションを使った「人の可能性を引き出し、目的を実現すること」を達成するためのトレーニングの方法です。
 コーチングのトレーニング研修は、その手法が体系的に整理されていることが特徴で、とても学びやすくなってます。
 コーチングとは何かについて、よく研修の導入で説明されるのが、コーチ(coach)の語源は「馬車」であるということです。顧客を、「顧客が目指す目的地へ運ぶ」ことがコーチの役割ということになります。

 コーチングを実践するためのトレーニングとして体系化されていく中でカウンセリングやコンサルテーションの技法がたくさん取り込まれていて、しかも簡潔に言語化され、演習化されているのでこのようなスキルについて身につけ易い方法を提供しています。
 しかしスキルだけではなく、コーチとしての振る舞いとして、「クライエントの可能性を信じきること」「クライエントが必要とする答えはクライエントの中にあること」「セッションの持ち主はクライエントである」などコーチ側のマインド・セットがこのコーチングの基盤となることが強調されています。このコーチ側のマインド・セットはコーチングのセッション全般にわたってコーチの態度に影響することなのでとても重要です。

 コーチングの場の構成のために、たくさんの労力を使います。「守秘義務」や上述のコーチのマインンド・セットについての説明も欠かさずにクライエントへ行います。クライエントとの信頼関係の形成のために「相手を『認める』」スキル、真の自己実現を理解し、目標を見極めるための『聴く』『質問する』スキル。クライエントの今を確認するための『フィードバック(伝える)』のスキルなど、クライエントが安心・信頼して話せる環境を形成していきます。

 コーチングではクライエントの動機が最も重要視されます。コーチングは「何かを達成したい」「より効率的に」「より高いレベルの」「的確に」などクライエントの高い達成動機、あるいは「何かをなしとげたいけれどもできない、なんとかしたい」という悩みをを持つ人に有効な方法です。言い換えれば、クライエントの参加がなければコーチングは成立しないのです。
 コーチングのを実施する上で考慮した方がいいことに「ティーチング(教える)」と「コーチング」を区別することがあります。どうしても教えたくなる衝動にかられることがあるわけですが、コーチングでのセッションでは「教える」頻度は下げるべきと考えられています。教えることが重要な場合も有ります。その時は「私はいま『教える』という作業」をしていることとその意味をしっかり把握しておきましょう。

 コミュニケーションの基本的姿勢はマイクロ・カウンセリングなどに大変近いもので構成されています。ミラーリング、ペーシング、ゼロポジション、チャンクダウン、チャンクアップ、I(アイ)メッセージなどは家族療法の各技法やNLPなどで学ぶものとほぼ近いものです。

コーチングでは目標設定が重要な項目にあげられています。
①より具体的であるかどうか
②アウトカム(指標)とメジャー(測定)(その目標は何によって達成されたを知ることができるか)
③現実的なことか(達成できる目標かどうか)
④真の目的との関連性(目標を検討していくなかで本来のクライエントの動機(真の希望)から外れていないかどうか)
⑤期限を決める(いつまでに達成するかきめる)
など具体的に取り組んでいきます。

その上で
クライエントの現状を把握し、具体的な方法と過程を考えますそのためには、クライエントのもつ内的、外的な資源(何がその目標達成に役に立つか)を考えたり、目標が達成されたときのイメージを想起して、その過程を振り返ってみたりすることで、成功までに歩んだ過程を明確にし、有効であった方法や役に立った資源を見出していくといったセッションを行います。そして最後にセッション終了後にクライエント起こすべき行動を決めてひとつのセッションを終えます。クライエントが目標達成のために最も必要なことは思考だけでなく有効な「行動」ですから行動レベルのクライエントの意識決定をサポートすることになります。

こうしたセンションの構造は保ちながら、セッションの持ち主はクライエントですから、内容や方向性など、ことあるごとに「この内容でいいですか」「今日はどこまで決めましょうか」「いま不都合を感じていたりしませんか」など状況のコントロールを常にクライエントに渡していきます。そこのとがクラインエントを尊重し、自己決定を支えることになるとされています。

このような体系化された構造と体系化された技法を用いてコーチング・セッションを進めるのですが、この構造や技法が演習とともに使いこなす技法として習得できることがコーチング・スキル・トレーニングの魅力でもあります。

<注意喚起>
 コーチとはスポーツの世界で使われてきましたが、近年は成功哲学的にビジネスの世界でも応用されています。「必ず成功できる!」といった眉つばでかつ高額な自己啓発活動とも結びついているようなのでセミナーなどで学ぶ際には、注意が必要です。


<読んでおくべき本>
「メディカル・サポート・コーチング入門」 奥田弘美 日本医療情報センター 2003

「対人援助のためのコーチング」 諏訪茂樹 中央法規 2007

エンパワーメント empowerment

エンワパーメント  empowerment

 近年、社会福祉や看護など支援の構築場面において頻繁に使われていますが、ひとつの定義にまとまっていないようにも思われます。「クライエントの強みに着目する支援」と表現されることも多いですが、エンパワーメントもしくはエンパワーメント・アプローチはその登場してきた背景をしっかりと理解する必要があるように思えます。
 ソーシャルワーク・社会福祉の世界では、ソロモン(Solomon, B)が「黒人のエンパワーメント」という本を書いてこの概念を紹介しています。黒人であること、女性であること、障害者であること、性的マイノリティであること、外国人であること、高齢者であることなどが、社会から否定的評価をされたりや社会的に抑圧された存在となることによって、(当事者にはなにも問題がないのに、このような外的な要因によって)社会的な役割を行ったり、自己実現を図ろうとする時に有効に資源を活用できない状態に陥り、そのため無力感を漂わせてしまっている状態。このような状態にある人に対して、その本来の力や誇りを取り戻していく支援を行うことまたはそのプロセスを「エンパワーメント」と言っているようです。
 「ソーシャルワークは、個人と環境と言ってきたけれど、やっぱり個人の問題に焦点を当てすぎるのではないか。個人の内面だけに焦点をあてた支援をするだけでなく、今まで以上に、社会的な不公平に対してもっと目を向け、取り組むべきなのではないか」というこれまでのアプローチに対する批判的な意味も込められいるように思います。


個人レベルでのエンパワーメント・アプローチ 

①このアプローチの対象は社会・制度・文化的な状況において、不公平な状況に置かれ、パワーが失われた状態となり。その結果、様々な資源や環境を自身でコントロールすることが困難になっている人といえるでしょう。
②そして、問題を個人の内面にみるのではなく、外在化させ、本来の個人の持っている能力を発揮できるようにしていきます。そのために、ワーカーはリーダーシップをとるのではなく、パートナーシップをとり、「協働関係」をつくります。
③そして、クライエントが本来持っている「力」や彼をとりまく「資源」の「強さ」を強調していきます。ワーカーはクライエントと結んだ信頼関係のなかで、彼が本来持っている「能力」を協働で確認して、社会資源、個人資源の確認とその活用方法を協働で考え、必要であれば、ワーカーは新たな情報を提供し、クライエントに与えられ、無力な状況に落とし込んでいた継続的な社会的な抑圧環境に対して批判的な思考が持てるように対話していきます。(ここが大切です!)

個人レベルの他に、集団レベル・組織レベル・社会(政治)レベルなど4つのレベルでのエンパワーメント・アプローチがコックス(Cox)らによって紹介されています。

 エンパワーメントを考えるときに捉えておきたいことは、なぜパワーレス<Powerless>な状況、あるいは力を奪われている<Dispowered>状況が生じているかということです。
黒人であること、女性であること、障害者であること、ある疾患を抱えているということ。病気を抱えた人であることが問題と考えるのではなく、取り巻く社会環境に課題を置いていく。弱められているが故に、ことの善悪を問わず状況を他者によってコントロールされている状態が、当事者をパワーレスな状態に陥れていると考える必要があるからです。

<学ぶべきこと>
 エンパワーメントとは、本来「権限移譲」のことを指すようです。専門家や為政者、役所、会社などで権限をもつものが、物事を決定し、進めていく権限をより当事者に近いひとに渡していくこと、その能力を信頼し、責任も含めて渡していく。そんなようなことを指しているのですが、支援する場面にもこの考えは、置き換えることができるのではないでしょうか。支援する側がこのことができたときに、エンパワーメント・アプローチが始まるのだろうと考えます。

 エンパワーメントが流行ってきている背景には、「市民社会」の強調、「自由主義」から「コミュニタリアリズム」などの市民の時代の到来があると思います。このなかで、留意すべきことは、行きすぎた自己責任の強調などと結びついてしまわないように心がけたいということです。

<読んでおくべき本>
バーバラ・ソロモン(Solomon, B)「黒人のエンパワーメント」BlackEmpowerment:Social Work in Oppressed Communities Columbia Univ. Press 1976 

コックス&パーソンズ(Cox,E.O&Persons,R,J)「高齢者エンパワーメントの基礎」小松源助訳 相川書房 1997



2015年4月11日土曜日

マイクロカウンセリング  Microcouseling

マイクロカウンセリング

 マイクロカウンセリングとは、ひとつのカウンセリング理論を説明するものではなくて、カウンセリングの基本とされる要素をひとつひとつ技法として取り出して名称をつけて、可視化して学びやすくしたコミュニケーショントレーニングの体系と考えてよいでしょう。「マイクロ」とは細分化とか最小単位のという意味ですが、採用するカウンセリングや心理療法、ソーシャルワークの理論や流派にとらわれずに、カウンセリングの基礎を学ぶことができる優れた方法として定評があります。
 アレン・E・アイビィが様々な流派の心理療法やカウンセリングのモデリングを行って技法を体系化したものが始まりで日本でも日本マイクロカウンセリング学会が研修会を開催しています。

<学ぶべきこと>

 カウンセリングの技法を階層的に捉えた「マイクロ技法の階層表」は、非常に示唆に富んでいるものです。「文化的要素やウエルネス」をベースに「関わり行動」「開かれた質問・閉ざされた質問」「クライエント観察技法」「はげまし・いいかえ・要約」「感情の反映」「5段階の面接技法」「対決」「焦点のあてかた」「意味の反映」「積極技法」「技法の統合」「個人的スタイルと理論の決定」というカウンセリングの学びの階層が体系化され、ピラミッドのように表現されています。そのひとつひとつが演習として学べるようになっています。カウンセリングを理論だけでなく、技法として使えるようにしていく体験して、使ってみる演習を通して身につけていけるように整えたところはとても優れています。

http://www.microcounseling.com/pdf/hierarchy.pdf

<読んでおくべき本>

「マイクロカウンセリングー”学ぶ-使う-教える”技法の統合:その理論と実際」アレン・E
・アイビィ著 福原真知子 訳 川島書店 

2015年4月10日金曜日

障害の受容 ステージ理論

障害の受容

 「障害の受容」が支援の目標になるかというのは議論の分かれるところでもあります。「障害の受容ができない」ということが問題として語られる文脈に注意する必要もあります。リハビリテーションの訓練が進まない要因のひとつに障害の受容が挙げられていた時代がありました。支援者が行おうとする援助がうまくいかない場面で当事者の障害受容が語られているとしたらそれは、「支援者側の問題」であったりします。
 それでも障害の受容について考えることは、当事者の出来事に対する受け止め、家族や社会生活の状況、これまでの生活背景など当事者のことをより深く考えること(気づくこと)あるいは彼を取り巻く社会について考えることにつながる場面でもあります。また当事者だけでなく、家族、親、兄弟、介護者、援助職、教育者など様々な立場で「障害をどう受け止めるか(てきたか)」について考えることも重要なテーマとなります。

<ステージ理論>
 ステージ理論といえば、臨死患者が死を受け止めるまでに、どのような心理的プロセスをたどるかということを考えた米国の精神科医 E・キューブラ・ロスのモデルが有名です。
「否認」・「怒り」・「取引」・「抑うつ」・「受容」の5つのステージからなるこの整理は「死」だけではなく「障害」についても同じような反応が見られるとして援用されてきました。
 障害の分野ではナンシー・コーンのステージ・モデルがあります。「ショック」・「回復への期待」・「悲哀」・「防衛」・「適用」の5段階を提唱しています。
ナンシー・コーンは中途障害者の心理的反応について「うつ症状」「せん妄」「痛み・疼痛」などの阻害因子をあげて説明しています。多くの段階理論は「受容」というより「適応」や「順応」などの悲哀の仕事(モーニングワーク)の理論を参考に構成されているようです。

<学ぶべきこと>

 これらのステージ理論は、多くの人はからなずこういう経過をたどるという統計学的に検証された理論ではありません。たくさん援用されている割にエビデンスとして用いるには根拠は薄いとも言われます。しかし、こうしたステージ・モデルを理解しておくことによって、「否認」、「怒り」、「抑うつ」など今、当事者が示している反応に対してひとつの解釈を与えてくれていることがわかります。そして順番はこの通りか、繰り返しくるものかどうかわからないが、そのひとつのステージのその反応にずっと止まり続けるばかりではない(ひとは変化していく)ということは臨床的にはとても助けになる理論だと思います。また、この分野では、専門職による支援だけでなく、同じ障害を持つ人たちが支え合う(Peer Support )も有効な支援になることが知られるようになりました。
障害の受容は、障害を抱えた個人の努力の問題として語られてきた傾向があります。価値の転換などもちろん個人レベルの課題はあるのですが、支援する側の課題であったり、大きくは社会が障害をどう受容するのかという課題にもたどり着きます。

<読んでおくべき本>

「リハビリテーションを考えるー障害者の全人間的復権ー」上田敏 青木書店 1983
「障害学への招待」石川准ほか 明石書店 1999
「障害受容ー意味論からの問い」南雲直二 荘道社 1998

危機介入 Crisis Intervention

     危機介入 Crisis Intervention


 「危機」とは状況を示す言葉で、その人が持っている過去の経験や知識、慣習によるこれまでの対処方法では、もはや対応できない問題状況を指しています。「危機」についても諸説あるので「危機理論」も調べてみましょう。一般的に「危機」と言われるものにどんなものがあるでしょうか。突然の病気や怪我、自殺(企図)、失業、近親者との死別などの状況的・偶発的な危機状況もあれば、離乳や入学時の不安からの不登校、思春期の性に対する嫌悪など人の発達のなかで出会う危機状況もあるでしょう。「危機介入」とはこうした危機状況に対して、当事者の危機に伴う感情の表出をサポートし、受け止め、危機状況への適切な対処ができるように支援していく短期的な支援プロセスとされています。人はこうした危機を乗り切ることによってより成熟した自我状態(成長)が促されるとも言われます。
 しかし、危機介入は、その人が抱える心理的な課題の原因と突き止め、洞察したり、問題の完全な解決、そして人格の成長を目標にするアプローチではなく、あくまで今ある危機を具体的な方法で乗り切り、均衡状態に戻ることを目標にした介入方法であることを忘れてはなりません。
「危機」状況のなかでは、当事者の問題解決能力は低められていることは予測しなければなりませんし、そうした状況のかなでは、冷静に洞察的なカウンセリングを行うよりも、指示的(ディレクティブ)に、具体的に対応した方が現実的な対処が容易に手繰り寄せることができます。こうした状況の中では当事者が持っている社会的なサポートシステムがどのような状況であるかを把握することが有効になります。危機の中に現れた具体的に対応、対処しなければならない心理的、社会的な問題を一緒に対処してくれる担い手がどのように整備されているかを把握するようにします。そしてクライエント・当事者が、自分で対処できるように道筋を示したり、ポイントを見極めたりしながら、再びコントロールを当事者に戻していきます。当事者自身が整備された社会的サポートなどを活用しながら自分自身で対処できるところまで支援します。これが「危機介入」のおおまかな考え方です。

<学ぶべきポイント>

 アセスメントの段階で①危機の具体的な内容を把握します(何が起こっているか、出来事は何か)②クライエント・当事者はそのことをどのように捉えているかを確認します。(クライエントの理解の把握)③クライエント・当事者のサポート状況・体制を把握します。④当事者あるいは家族の問題解決能力の様子はどうかを確認します。(今とこれまでの対処能力の把握)⑤身体状況や自殺企図など今後の身体的・精神的リスクの客観的予測と把握をします。
 そして介入の計画を立案します。アセスメントに基づいて、本人の意思や能力を尊重しつつ、周囲のサポート体制の強さを把握しながら、具体的なサポートの活用内容とその手続きなどはひとつひとつ具体的に示しながら、優先順位をつけながら、ひとつひとつクライエントに並走しながら、できるかぎりクライエント自身でできるように、できないところは「代行」をしながら、クライエントと共に解決を進めていきます。危機の前の均衡状態を取り戻せたことを確認できたら介入は終結となります。

<読んでおくべき本>
「危機介入の理論と実際ー医療・看護・福祉のために」ドナ・C・アギュララ 小松源助 荒川義子訳 川島書店機介入 Crisis Intervention


 

交流分析 Transactional Analysis

 交流分析は、アメリカの精神科医師のバーン(Berne,E)によって開発されたコミュケーションの理論とこれに基づいた治療の体系です。日本でも、個別あるいは集団療法として発展して心理療法などに活用されているほか、自己啓発的な活用もされていて狭義の治療的な場面だけではなく一般にも広まっている理論でもあります。Transactional Analysisの略称でTAと呼ばれることもあります。「構造分析」「交流分析(パターン分析)(ゲーム分析)」「脚本分析」の3つ(あるいは4つ)を軸にして展開されます。

<構造分析>
 自我心理学の理論を援用して個人の心理メカニズム(自我状態)を分析します。自我状態を、親(P)<=Parent>、大人(A)<=Adult>、子供(C)<=Child>の状態に分類し記号化を行います。よく交流分析の自我状態をフロイドの理論でいうところの自我をA、イドをC、超自我をPとして紹介されていることもありますが、2つの理論は同じではないということは理解しておきましょう。交流分析の自我状態の構造分析の優れている点は、自我状態について分かりやすく説明され、可視化できることにあります。
 さらに親(P)は規律的・批判的なPである(CP)<=Critical Parent>と養育的・寛容的・保護的Pである(NP)<=Nurturing Parent>に2分類され、子供(C)は自由・奔放なCである(FC)<=Free Childの略>と順応的なCである(AC)<=Adapted Child>に2分類して捉える方法もあります。これらの自我状態を治療者とのやりとりやエゴグラムといった自我状態の分析テストを用いて可視化して、識別することによって、様々な気づきを得たり自身の不調和な部分を理解したりできるようになります。

<交流分析>
①パターン分析
 自我状態の構造分析を行った後に、2者間あるいは複数の間での自我状態の交流(コミュニケーション)を分析します。コミュニケーションの方向を刺激(S)と反応(R)で捉えたときにAとA(Aの自我状態から相手のAの自我状態に発信された刺激に対して、Aの自我状態で受け止め、A自我状態の反応を相手のAへ返す)、P(S)→Cに対してC(R)→Pなどのパターンを「平行的(相補的)交流」、A(S)→A(R)、P(S)→Cに対してA(R)→Aといったコミュニケーションパターンを「交差的交流」と表現しています。また、一見A→Aで行なわれているコミュニケーションであっても、内面心情的にはP→CとC→Pの組み合わせであったりする二重の構造を持つコミュニケーションを「裏面交流」と呼んでいます。
②ゲーム分析
 ゲームのように繰り返し行われる非生産的な(あまり好ましくない)結末をもらたすだけの、交流様式をパターン化して捉えてみようとする考えです。バーンは著書の中で様々なゲームのパターンを指摘し、面白い名前をつけて紹介しています。

 Why Don't You, Yes But(なぜあなたはしないんですか、ええ、でも。。。のゲーム)
I'm only Trying to Help You(私はただあなたをたすけようとしているだけなのですゲーム)

<脚本分析>
小さい頃からの人生を送るなかで、成立している自身への刷り込みや信念は、これまで分析してきた自我状態の交流パターンを繰り返し繰り返し行ってきたなかで、自分で書き込んだもので「人生脚本」と呼ぶことにしました。ただその脚本は自覚されていないので、きずかない限り書き換えられることはありません。その見えない人生脚本が自分の人生の選択(立場やコミュニケーションの取り方)に大きく影響を与えています。自分の人生脚本に、特に非建設的な脚本に気づき、修正を図ることを勧めています。脚本の成立原因を紐解く基本概念に「ストローク(愛情や承認の要求)」「時間の構造化」「人生態度(基本的構え)」「値引き(ディスカウント)」などがあるので調べてみましょう。


<学ぶべきこと>
 交流分析の自我状態の「構造分析」は、人の自我状態を可視化してみるという大胆な着眼点で、自身の心理的な内面の反応のくせのようなものに対して気づきをもたらしてくれるというツールであります。また「パターン分析」や「ゲーム分析」などのコミュニケーション分析では、コミュニケーションには一点の流れがあって、ある特定の人間関係やコミュニティの中では、これもくせのように行われるパターン化されたやりとりがあって、そのなかにはあまり好ましくない結果をもららすコミュニケーションが繰り返し行われいる状態が多く存在すること、それに気づき修正することで、非生産的なパターンから抜け出す手がかりを掴むことができます。「人生脚本」では私たちが人生に向かう態度は幼い頃からの身近な人たちとのコミュニケーションの中で築かれ、「書き込まれてきた」自覚されていない脚本によって方向づけられているなということとそのことへの具体的な気づきということが大切なポイントですが、その書き換えや再決断に進むのはより治療的な関わりということになりそうです。
 心理療法の技法として発展した理論ですが、福祉や看護の援助者としては、援助者自身の自己覚知やコミュニケーションのパターンを知るトレーニングとしての活用をお勧めします。

<読んでおくべき本>

 「人生ゲーム入門 人間関係の心理学」エリック・バーン著 南博訳 河出書房新社
 「TA TODAY 最新交流分析入門」イアン・スチュアート ヴァン・ジョインズ著 
  深沢美智子 監訳 実務教育出版 



2015年4月1日水曜日

問題解決モデル Problem-Solving Model

問題解決モデル Problem-Solving Model


 筆者の専門分野であるソーシャルワークの援助理論のひとつで、日本では個別相談援助と表記されるソーシャル・ケースワークの方法論理論のなかでも代表的なものになります。
 パールマン(Perlman,HH)が開発した方法で「人の人生は問題解決の連続である」という仮説にコミットした支援方法です。
 仮に、社会福祉の大きな援助のゴールを「人が社会的に建設的で、個人的に充実した生活を送れるようにすること(あるいはそうなるように援助すること)」としてみても良いけれども、それは少し幻想的ではないかとパールマンは問いかけています。実際に人の生活というものは進行していくもので、新たな問題に直面し、また問題を解決していく連続した過程であり、社会福祉の支援にあってはこのことを正しく認識して援助しなければ本質的で効果的な援助(クライエントがみずからの力で人生を送るようになること)にはならないと考えました。パールマンのケースワークではこの問題解決の「過程」を重視したのです。
 
 パールマンは「問題」とは「その人にとってのある時期に関心の中心となっている困難のことであり、援助を求めている人が感じ、そのことに心奪われ、体験しているもの」であるとして、問題に悩んでいる人は自分の問題を主観的に読み取り、また自分自身の問題の解決者とならなければならないとしています(だって連続するのだから)。ワーカー(働きかける人)は問題に悩んでいる人をとおして、その人とともに、その人の「力」を生かしてはじめて問題を取り扱うことができる存在と認識すべきであると主張しています。

 ここで問題の解決のために働く「力」とはクライエントの「動機付け」「感情」「知覚」「認知」「順応」の力であり、その力を統合するように機能しているのが「自我」(自我心理学の項参照)であるとしています。パールマンの理論はあくまで社会福祉の方法ですが、自我心理学の深い理解と応用を含んでいる方法です。問題解決モデルにはこのほかにもジョン・デューイの反省的思考過程分析の分析と構造化という考え方やエリクソンのライフサイクル・モデル、役割理論などが関連性の深い理論として登場しています。
心理社会的モデルも同じように自我心理学を基礎にしていますが、診断概念において<問題>と<クライエント自身の能力とリソース>にコミットが高いところが問題解決モデルの特徴といえます。(心理社会的モデルに代表される精神分析的アプローチは「時間がかかる割に効果がイマイチ」とか「費用がかかりすぎる」など支援の効率としての問題を常に指摘されていたアプローチでしたから焦点を定めて効率的・効果的なアプローチを推奨する必要もあったと推測します。)

<学ぶべきこと>
 問題解決モデルでは、<問題>をもっている<人>がある<場所>(相談機関や社会的な支援を行っている機関)などにその問題を抱えて援助を求めてくる。その人はソーシャルワーカーなどの援助を受けることになるが、援助する側は、その人が自分で問題を解決する能力(competence)を使って自分自身で解決を図ったり、自分自身で自分の問題解決に必要な資源を補おうとするような活動は展開されるような<過程>となるように援助することを勧めています。
 ゴール(援助目標)に関する考え方としても、パールマンは限られた時間のなかで、効率良くクライエントとワーカーのエネルギーを動員するためにには「短期の部分的ゴール」(partialized goal)を設定することを勧めています。「成功感」を得やすいことと次のゴールを手繰り寄せる方法や希望を手にすることができるからだと言っています。(パールマンはインテークや関わりの初期段階でドロップアウトしてしまい支援から遠ざかってしまう人々の研究をしていましたのでそのことと関係があるかもしれません。1967年にパールマンは「ケースワークは死んだ」というショッキングなタイトルの論文を発表しながらも、実はケースワークが「有効」であるためにはという課題を考え続けた方でもあります。)

以下にパールマン自身がクライエント自身が問題解決に向かって力を発揮していくために重要としてしている項目を列挙しておきます。

①その人自身が<問題>を明確に捉えていること
②その人の<問題>に対する主観的な体験をはっきりとさせる。「この問題状況のなかのこの人」(this person in problem situation)
③問題の原因と結果に他者がどのような重要性と影響力を持っているか検討する<重要他者の探索>。問題に関連する人(person in relation to his problem)の諸側面に関する吟味。
④解決可能な手段と様式を探索し、検討を加える
⑤手段の選択にあたっては<問題>と<人>の関連をよく見る<関係の探索>
⑥その方法が妥当であったかどうかの検証を行う

 端的に言うならば「取り組むべき問題の特定」と「援助を求めている人の能力と動機付けの評価」「クライエントが活用する資源と機会の探索」「その方法の吟味」そして「実行」というプロセスを重視した方法であるといえます。まずクライエントがどのくらい望んでいるか(動機付け)そしてその対処のためにどんな能力をもっているか(いないか)どんな能力を高めていけるかに焦点をあてます。(これをワーカービリティと呼んでいます)そしてクライエント自身の環境やワーカーが提供できる支援やサービスにはどのようなものや手段があるか、そしてそれを活用した場合の影響や結果に関する認識に焦点を当てていくことから始まるのです。


<読んでおくべき本>

「ソーシャル・ケースワークにおける問題解決モデル」ヘレン・ハリス・パールマン『ソーシャル・ケースワークの理論7つのアプローチとその比較』ロバートW.ロバーツ編/久保紘章訳 川島書房

「ソーシャル ケースワーク」パールマン,H.H 著 松本武子訳 全国社会福祉協議会出版

 

クライエント中心理論 Client-Centered Theory

クライエント中心理論 Client-Centered Theory


 ロジャーズ(Rogers,C)の提唱する自己理論に基づく(自己不一致を自己一致に運ぶことを目標とした治療的)面接方法をいいます。日本では、カウンセリングを学ぶ際のイロハのイのような扱いを受け紹介されてきた理論でもあります。
「アメリカではすでに心理療法の理論リストから外されて久しい」(諸富 1997)、「もう古い」という声もあります。広く取りあげられただけに功と罪の両面があるように思います。しかし、この理論を抜きに日本のカウンセリングは語れないように思います。
 傾聴や非指示的(ノンデレクティブ)な姿勢などは日本人によほどフィットした理論だったのかもしれません。「人が真に<自分自身>として生きていくことTo be That Self Which One Truly Is」を目指したロージャスの理論は日本人の琴線に触れるものがあるのかもしれません。

「人はみずからの内側に、自分を理解するための大きな資源を持っていること、生きていくことに困難さを抱えて悩んでいても、それを開発していく促進的な心理学的な環境が整えば、そのひとはその力を発揮して、解決に向かってみずからの方法で進んでいくことが期待できる。」

おそらくこのようなまとめ方がロジャーズの理論の理解の仕方の一つになると思います。

<学ぶべきこと>
ロジャーズと言えば、非指示的療法(non-directive)が有名だったりしますが、ロジャーズ自身は後半ではこの概念はあまり用いなくなっているようです。ロジャーズの方法のことを通っぽく「ノンデレ」と表現される方も多いです。形式的・技術的(表面的な面接技術)なことだけが伝承されることを本人自身も危惧していたようで、その理論や思想的なことに向き合うように工夫し、方向性も微妙に変化しています。
 人が自らの課題解決のために自分自身の大きな資源に気づき、開発し、活用していく「促進的な心理学的な環境」を提供するためにカウンセラー側の存在の意味・方法・技術・あり方を探求し続けた方だと思います。
ロジャーズがあげたカウンセラーの態度的な条件などについては深く理解しておきましょう。
「受容」あるいは「無条件の肯定的配慮」
「共感的理解」
「純粋性」あるいは「一致」
「感情の反射 reflection of feeling 」
などがこれにあたります。
こうしたカウンセラー側の態度がなぜ、クライエントに効果的なプラスの心理的な変化をもたらすのかについてのエビデンスを含んだ説明はあまり広がっていないことは残念なことです。どんなクライエントに効果的で、この方法が活きないクライエントがあるのかといった適用の問題も整理されていません。「診断」という概念を「必要なし」としたこの方法の限界や問題点を指摘する声もあります。(国分 1980)
カウンセリングやサイコセラピーがクライエントと治療者の織りなす関係性(相互作用)のなかにその成否の鍵があることを見出したことは大きなことと言えます。

<読んでおくべき本>

友田不二夫先生の「カウンセリングの技術」(誠信書房)や伊藤博先生の「カウンセリング」(誠信書房)など日本のカウンセリングの黎明期に出版され広く読まれた本はいずれもロジャース派とされる先生方であります。
「ハーバート・ブライアンの事例」はロジャーズの方法を理解するために読むべき事例として挙げている方が多いです。カウンセリングやサイコセラピーにおいて初めて逐語記録を公的に刊行したものと言われています。

「ロジャーズ クライエント中心療法」佐治守夫・飯長喜一郎 有斐閣
「カール・ロジャーズ入門 自分が自分になるということ」コスモスライブラリー ,1997

2015年3月27日金曜日

ソーシャルサポート social support

 ソーシャルサポートの研究は「人と人の結びつき」が人々の健康とどのような関連があるかという関心から始まったようです。コッブ(Cobb 1976)はソーシャルサポートを情報と考えました。ひとによる行為から「情報」を受けることによって、その人が「私は助けられた」「愛された」「承認されている」などと感じるときに、それをソーシャルサポートと呼ぶことを規定してみることを始めました。そしてそれは様々なストレスを退け、社会的な欲求を満たしてくれるものではないかと考えたのです。
 ソーシャルサポートの研究は様々な形で発展し、「受容されるサポート」とは何か。サポートにはどんな種類や機能があるかなどについて研究が進められてきました。研究者によって、ソーシャルサポートの定義も様々なものになっています。ソーシャルサポートの研究者である浦(1996)は、その著書で「人と人が支え合うことの諸相」と総称するにとどめその定義付けの多様さを紹介しています。

<学ぶべきこと>

 ソーシャルサポート論では、ソーシャルサポートの効果や結果についての研究も盛んに行われていますが、支える人と支えられる人の関係性について学ぶことが重要な項目になっています。支援を受けるということはその人は「弱々しい人」というイメージが付きまといます。「持っているひと」が「持っていないひと」を支援するという支援の方向性は、その人が自分自身の人生を自分でコントロールしながら生きて行くということにおいては矛盾する部分があります。「受容されたサポート」や「ネガティブ・サポート」という概念はサポートは単に提供されれば良いというものではなく、サポートが誰かから、どんな方法で支援されたかによってその質や効果は大きく異なるということを示しています。カプラン(Kaplan 1974)の研究では未亡人への支援について、専門家による構造化された支援のみでなく、他の未亡人からの支援がとても役に立ったことを報告しています。

 サポートの種類については、「道具的サポート」と「情緒的サポート」の2種類あるいはこれに加えて「情報的サポート」の3種類が挙げられています。
「道具的サポート」とは
「情緒的サポート」とは
「情報的サポート」とは

 『人は「支えてほしい人」に「支えてほしい方法で」支えられたときに「支えられた」と受け止める』と言う考えかたを採用しています。支える側の都合だけで走るのではなく、支えられる側の「受け止め」を思考します。そして立ち返って支える側の「状況」も捉えてゆき、そしてその相互作用である「支え合い」を考えることになります。

<読んでおくべき本>
「支え合う人と人ーソーシャルサポートの社会心理学」浦充博 サイエンス社(1996)

「地域ぐるみの精神衛生」カプラン著 近藤喬一訳 星和書店 (1979)




2015年3月26日木曜日

自我心理学 Ego Psychology


自我心理学とは、人に起こる心理的な現象や心理機能を、自我との関係において説明し理解しようとする心理学の領域です。アンナ・フロイト(A.Freud 1985-1982)が行った防衛的自我の葛藤や防衛機制に関する取り組みが自我心理学の始まりとされています。精神分析の考えを基礎にして自我心理学は発展をしました。自我同一性の理論を基に、人の社会的発達段階と心の問題を考えたエリクソン(E.H.Erikson 1902-1994)の研究も有名です。

<学ぶべきこと>
 アンナは、児童心理の臨床で功績を上げた人です。ひとは危機や不安やなことを経験した時に、人はその不安に対して防衛機制を働かせて再適応しようとするという仮説をもとに「抑圧」「退行」「投影」「否認」「合理化」「知性化」「逃避」「昇華」という防衛機制の分類と説明(定義)を行いました。これによりひとが経験する「現実」と「内的な欲求」を調整したり統合したりするこころの働きを説明しています。これを「自我防衛機制 Ego Defence System 」と言います。
 このような防衛機制の働きを理解しておくことで、ひとが不安にさらされたときのこころの働きについて考えるひとつの思考の枠組みを手に入れることができます。

  エリクソンは、比較的、個の要素の強かった精神分析や自我心理学を発展させて、社会的な存在としての個人を見つけていきます。ひとは防衛機制などの自我の機能を使って社会や環境に自己を適応させている「社会的存在」である、それが人間ではないかと主張したのです。「ライフサイクル(一生涯の発達漸成図式)」を示して「乳児期」「幼児期前期」「幼児期後期」「児童期」「青年期」「成人期」「壮年期」」「老人期」の8段階に分けて考えている。エリクソンはこのそれぞれの時期の社会的条件のなかで自己同一性、自分のアイデンティティを確立することが課題となってくる(社会的存在としての自己同一性の確立)としている。この確立に失敗してアイデンティティが拡散すると社会への帰属意識が持ちにくくなり、危機が生まれるとしています。

<読んでおくべき本>
「自我と防衛」A・フロイト著 外林大作訳 誠信書房 (1985)
「ライフサイクル、その完結」E.H.エリクソン・J.M.エリクソン著 村瀬孝雄・近藤邦夫訳 みすず書房 (2003)