問題解決モデル Problem-Solving Model
筆者の専門分野であるソーシャルワークの援助理論のひとつで、日本では個別相談援助と表記されるソーシャル・ケースワークの方法論理論のなかでも代表的なものになります。
パールマン(Perlman,HH)が開発した方法で「人の人生は問題解決の連続である」という仮説にコミットした支援方法です。
仮に、社会福祉の大きな援助のゴールを「人が社会的に建設的で、個人的に充実した生活を送れるようにすること(あるいはそうなるように援助すること)」としてみても良いけれども、それは少し幻想的ではないかとパールマンは問いかけています。実際に人の生活というものは進行していくもので、新たな問題に直面し、また問題を解決していく連続した過程であり、社会福祉の支援にあってはこのことを正しく認識して援助しなければ本質的で効果的な援助(クライエントがみずからの力で人生を送るようになること)にはならないと考えました。パールマンのケースワークではこの問題解決の「過程」を重視したのです。
パールマンは「問題」とは「その人にとってのある時期に関心の中心となっている困難のことであり、援助を求めている人が感じ、そのことに心奪われ、体験しているもの」であるとして、問題に悩んでいる人は自分の問題を主観的に読み取り、また自分自身の問題の解決者とならなければならないとしています(だって連続するのだから)。ワーカー(働きかける人)は問題に悩んでいる人をとおして、その人とともに、その人の「力」を生かしてはじめて問題を取り扱うことができる存在と認識すべきであると主張しています。
ここで問題の解決のために働く「力」とはクライエントの「動機付け」「感情」「知覚」「認知」「順応」の力であり、その力を統合するように機能しているのが「自我」(自我心理学の項参照)であるとしています。パールマンの理論はあくまで社会福祉の方法ですが、自我心理学の深い理解と応用を含んでいる方法です。問題解決モデルにはこのほかにもジョン・デューイの反省的思考過程分析の分析と構造化という考え方やエリクソンのライフサイクル・モデル、役割理論などが関連性の深い理論として登場しています。
心理社会的モデルも同じように自我心理学を基礎にしていますが、診断概念において<問題>と<クライエント自身の能力とリソース>にコミットが高いところが問題解決モデルの特徴といえます。(心理社会的モデルに代表される精神分析的アプローチは「時間がかかる割に効果がイマイチ」とか「費用がかかりすぎる」など支援の効率としての問題を常に指摘されていたアプローチでしたから焦点を定めて効率的・効果的なアプローチを推奨する必要もあったと推測します。)
<学ぶべきこと>
問題解決モデルでは、<問題>をもっている<人>がある<場所>(相談機関や社会的な支援を行っている機関)などにその問題を抱えて援助を求めてくる。その人はソーシャルワーカーなどの援助を受けることになるが、援助する側は、その人が自分で問題を解決する能力(competence)を使って自分自身で解決を図ったり、自分自身で自分の問題解決に必要な資源を補おうとするような活動は展開されるような<過程>となるように援助することを勧めています。
ゴール(援助目標)に関する考え方としても、パールマンは限られた時間のなかで、効率良くクライエントとワーカーのエネルギーを動員するためにには「短期の部分的ゴール」(partialized goal)を設定することを勧めています。「成功感」を得やすいことと次のゴールを手繰り寄せる方法や希望を手にすることができるからだと言っています。(パールマンはインテークや関わりの初期段階でドロップアウトしてしまい支援から遠ざかってしまう人々の研究をしていましたのでそのことと関係があるかもしれません。1967年にパールマンは「ケースワークは死んだ」というショッキングなタイトルの論文を発表しながらも、実はケースワークが「有効」であるためにはという課題を考え続けた方でもあります。)
以下にパールマン自身がクライエント自身が問題解決に向かって力を発揮していくために重要としてしている項目を列挙しておきます。
①その人自身が<問題>を明確に捉えていること
②その人の<問題>に対する主観的な体験をはっきりとさせる。「この問題状況のなかのこの人」(this person in problem situation)
③問題の原因と結果に他者がどのような重要性と影響力を持っているか検討する<重要他者の探索>。問題に関連する人(person in relation to his problem)の諸側面に関する吟味。
④解決可能な手段と様式を探索し、検討を加える
⑤手段の選択にあたっては<問題>と<人>の関連をよく見る<関係の探索>
⑥その方法が妥当であったかどうかの検証を行う
端的に言うならば「取り組むべき問題の特定」と「援助を求めている人の能力と動機付けの評価」「クライエントが活用する資源と機会の探索」「その方法の吟味」そして「実行」というプロセスを重視した方法であるといえます。まずクライエントがどのくらい望んでいるか(動機付け)そしてその対処のためにどんな能力をもっているか(いないか)どんな能力を高めていけるかに焦点をあてます。(これをワーカービリティと呼んでいます)そしてクライエント自身の環境やワーカーが提供できる支援やサービスにはどのようなものや手段があるか、そしてそれを活用した場合の影響や結果に関する認識に焦点を当てていくことから始まるのです。
<読んでおくべき本>
「ソーシャル・ケースワークにおける問題解決モデル」ヘレン・ハリス・パールマン『ソーシャル・ケースワークの理論7つのアプローチとその比較』ロバートW.ロバーツ編/久保紘章訳 川島書房
「ソーシャル ケースワーク」パールマン,H.H 著 松本武子訳 全国社会福祉協議会出版