障害の受容
「障害の受容」が支援の目標になるかというのは議論の分かれるところでもあります。「障害の受容ができない」ということが問題として語られる文脈に注意する必要もあります。リハビリテーションの訓練が進まない要因のひとつに障害の受容が挙げられていた時代がありました。支援者が行おうとする援助がうまくいかない場面で当事者の障害受容が語られているとしたらそれは、「支援者側の問題」であったりします。
それでも障害の受容について考えることは、当事者の出来事に対する受け止め、家族や社会生活の状況、これまでの生活背景など当事者のことをより深く考えること(気づくこと)あるいは彼を取り巻く社会について考えることにつながる場面でもあります。また当事者だけでなく、家族、親、兄弟、介護者、援助職、教育者など様々な立場で「障害をどう受け止めるか(てきたか)」について考えることも重要なテーマとなります。
<ステージ理論>
ステージ理論といえば、臨死患者が死を受け止めるまでに、どのような心理的プロセスをたどるかということを考えた米国の精神科医 E・キューブラ・ロスのモデルが有名です。
「否認」・「怒り」・「取引」・「抑うつ」・「受容」の5つのステージからなるこの整理は「死」だけではなく「障害」についても同じような反応が見られるとして援用されてきました。
障害の分野ではナンシー・コーンのステージ・モデルがあります。「ショック」・「回復への期待」・「悲哀」・「防衛」・「適用」の5段階を提唱しています。
ナンシー・コーンは中途障害者の心理的反応について「うつ症状」「せん妄」「痛み・疼痛」などの阻害因子をあげて説明しています。多くの段階理論は「受容」というより「適応」や「順応」などの悲哀の仕事(モーニングワーク)の理論を参考に構成されているようです。
<学ぶべきこと>
これらのステージ理論は、多くの人はからなずこういう経過をたどるという統計学的に検証された理論ではありません。たくさん援用されている割にエビデンスとして用いるには根拠は薄いとも言われます。しかし、こうしたステージ・モデルを理解しておくことによって、「否認」、「怒り」、「抑うつ」など今、当事者が示している反応に対してひとつの解釈を与えてくれていることがわかります。そして順番はこの通りか、繰り返しくるものかどうかわからないが、そのひとつのステージのその反応にずっと止まり続けるばかりではない(ひとは変化していく)ということは臨床的にはとても助けになる理論だと思います。また、この分野では、専門職による支援だけでなく、同じ障害を持つ人たちが支え合う(Peer Support )も有効な支援になることが知られるようになりました。
障害の受容は、障害を抱えた個人の努力の問題として語られてきた傾向があります。価値の転換などもちろん個人レベルの課題はあるのですが、支援する側の課題であったり、大きくは社会が障害をどう受容するのかという課題にもたどり着きます。
<読んでおくべき本>
「リハビリテーションを考えるー障害者の全人間的復権ー」上田敏 青木書店 1983
「障害学への招待」石川准ほか 明石書店 1999
「障害受容ー意味論からの問い」南雲直二 荘道社 1998