2015年5月26日火曜日

心理社会的アプローチ psychosocial approach

心理社会的アプローチ psychosocial approach


 「援助関係」の形成とコミュニケーションを通してのクライエントのパーソナリティの変容、そしてクライエントを取り巻く環境(状況)の機能を高め、人と環境(状況の)相互作用の機能不全を改善し福祉・生活課題の改善を目指すソーシャルワークの介入方法です。
 調査→社会診断→社会治療という現代の個別支援のインテーク→アセスメント→プランニング→援助の実施という型の原型となる過程を提示しました。ワーカーとクライエントの「関係」とコミュニケーションが社会治療の核となると考えた点はその後のケースワーク技術論に深い根を下ろしています。

  精神分析理論や自我心理学に強い影響を受けた ハミルトン(G Hamilton)らの診断主義(diagnostic)と言われるクライエントを力動的に捉えて援助しようとするアプローチが、後にホリス(F Hollis)によって「心理社会的アプローチ」として世に知られるようになり広まりました。ケースワーク理論の代表選手と言っても過言ではありません。

 ホリスは自身の論文のなかで、「今日の心理社会的(アプローチの)立場は、ケースワークに対するシステム理論的アプローチを目指している」と述べています。注1)心理社会的アプローチにおける診断と処遇の対象になるのは、「状況のなかの人間のゲシュタルト(the person-in-situation gestalt)」であるとされています。クライエントとクライエントの外界との相互作用のコンテクストの有り様をみるのだと宣言しています。
 しかし、その社会システムのなかのサブ・システムである個人のパーソナリティ・システムの力動性を理解する最大の論拠はフロイト派といわれる自我心理学の諸理論においていることが診断派、心理社会的アプローチの大きな特徴です。

 また、ニード論においても心理社会的アプローチは独特の言い方をしています。心理社会的アプローチが取り使うクライエントの「ニード」は社会的ジレンマとして表出されるというのです。クライエントとクライエントが関わっている他者との相互順応、生活の諸欲求を満たす社会資源との相互順応この相互順応の不具合が社会的ジレンマ」であり、これが「ニード」として取り扱われるといいます。

心理社会的アプローチでは、「援助関係の形成」とそのコミュニケーションが重視されています。クライエントになる可能性のある人が「クライエントになる」プロセスが重視されます。このアプローチではワーカーとクライエントが協働して洞察的なコミュニケーションを行うことを前提としますから、クライエントが援助プロセスに主体的に参加することが前提になります。そのためにある程度クライエントの言語的なインテリジェンスや支援を受ける動機つけが前提条件となります。初期段階では以下のことが重要視されています。

①なぜクライエントが援助機関にコンタクトしているかのクライエントの理解
②クライエントがワーカーの援助を利用できるような関係の成立
③クライエントの主体的参加
④処遇の開始(契約あるいは同意)
⑤診断と処遇のための情報収集

 ホリスの方法になってからは、「人と環境の全体の関連性」が強調され、ソーシャルワークが対象としている問題や課題は、クライエントが抱える個人の病理から発生しているものだけではなく、環境からの圧力だけが作り出しているのでもなく、両者の相互作用の結果であるというものの見方が強調されるようになりました。
 フロイト派のパーソナリティ理論に準拠しているとは言ったものの、その処遇においてはイド・自我・超自我などのパーソナリティシステムや特に無意識についての概念を処遇において「表立って扱う」ことは少なくなりました。
 とはいえ、自我心理学や力動心理学の概念の使い手であることは求められています。自我心理学はクライエントが自分の困難や問題に対して行おうとする行動などの程度や適切さを評価するために防衛などを含んだ自我の機能を理解して援助するために使われるようになりました。


注1)Florence Holice : The Psychosocial Approach to the Practice of Casework , Theories of Social Casework The University of Chicago Press 1970  :F ホリス「ケースワーク実践における心理社会的アプローチ」 『ソーシャルケースワークの理論-7つのアプローチとその比較』ロバートW.ロバーツ/ロバートH.ニー 久保紘章 訳 川島書店 1985


<読んでおくべき本>

Gordon Hamilton "The Underlying Philosophy of Social Casework" 1941

フローレンス ホリス著『ケースワーク-心理社会療法-』黒川昭登・本出祐之・森野郁子訳岩崎学術出版 1966