2015年4月24日金曜日

エンパワーメント empowerment

エンワパーメント  empowerment

 近年、社会福祉や看護など支援の構築場面において頻繁に使われていますが、ひとつの定義にまとまっていないようにも思われます。「クライエントの強みに着目する支援」と表現されることも多いですが、エンパワーメントもしくはエンパワーメント・アプローチはその登場してきた背景をしっかりと理解する必要があるように思えます。
 ソーシャルワーク・社会福祉の世界では、ソロモン(Solomon, B)が「黒人のエンパワーメント」という本を書いてこの概念を紹介しています。黒人であること、女性であること、障害者であること、性的マイノリティであること、外国人であること、高齢者であることなどが、社会から否定的評価をされたりや社会的に抑圧された存在となることによって、(当事者にはなにも問題がないのに、このような外的な要因によって)社会的な役割を行ったり、自己実現を図ろうとする時に有効に資源を活用できない状態に陥り、そのため無力感を漂わせてしまっている状態。このような状態にある人に対して、その本来の力や誇りを取り戻していく支援を行うことまたはそのプロセスを「エンパワーメント」と言っているようです。
 「ソーシャルワークは、個人と環境と言ってきたけれど、やっぱり個人の問題に焦点を当てすぎるのではないか。個人の内面だけに焦点をあてた支援をするだけでなく、今まで以上に、社会的な不公平に対してもっと目を向け、取り組むべきなのではないか」というこれまでのアプローチに対する批判的な意味も込められいるように思います。


個人レベルでのエンパワーメント・アプローチ 

①このアプローチの対象は社会・制度・文化的な状況において、不公平な状況に置かれ、パワーが失われた状態となり。その結果、様々な資源や環境を自身でコントロールすることが困難になっている人といえるでしょう。
②そして、問題を個人の内面にみるのではなく、外在化させ、本来の個人の持っている能力を発揮できるようにしていきます。そのために、ワーカーはリーダーシップをとるのではなく、パートナーシップをとり、「協働関係」をつくります。
③そして、クライエントが本来持っている「力」や彼をとりまく「資源」の「強さ」を強調していきます。ワーカーはクライエントと結んだ信頼関係のなかで、彼が本来持っている「能力」を協働で確認して、社会資源、個人資源の確認とその活用方法を協働で考え、必要であれば、ワーカーは新たな情報を提供し、クライエントに与えられ、無力な状況に落とし込んでいた継続的な社会的な抑圧環境に対して批判的な思考が持てるように対話していきます。(ここが大切です!)

個人レベルの他に、集団レベル・組織レベル・社会(政治)レベルなど4つのレベルでのエンパワーメント・アプローチがコックス(Cox)らによって紹介されています。

 エンパワーメントを考えるときに捉えておきたいことは、なぜパワーレス<Powerless>な状況、あるいは力を奪われている<Dispowered>状況が生じているかということです。
黒人であること、女性であること、障害者であること、ある疾患を抱えているということ。病気を抱えた人であることが問題と考えるのではなく、取り巻く社会環境に課題を置いていく。弱められているが故に、ことの善悪を問わず状況を他者によってコントロールされている状態が、当事者をパワーレスな状態に陥れていると考える必要があるからです。

<学ぶべきこと>
 エンパワーメントとは、本来「権限移譲」のことを指すようです。専門家や為政者、役所、会社などで権限をもつものが、物事を決定し、進めていく権限をより当事者に近いひとに渡していくこと、その能力を信頼し、責任も含めて渡していく。そんなようなことを指しているのですが、支援する場面にもこの考えは、置き換えることができるのではないでしょうか。支援する側がこのことができたときに、エンパワーメント・アプローチが始まるのだろうと考えます。

 エンパワーメントが流行ってきている背景には、「市民社会」の強調、「自由主義」から「コミュニタリアリズム」などの市民の時代の到来があると思います。このなかで、留意すべきことは、行きすぎた自己責任の強調などと結びついてしまわないように心がけたいということです。

<読んでおくべき本>
バーバラ・ソロモン(Solomon, B)「黒人のエンパワーメント」BlackEmpowerment:Social Work in Oppressed Communities Columbia Univ. Press 1976 

コックス&パーソンズ(Cox,E.O&Persons,R,J)「高齢者エンパワーメントの基礎」小松源助訳 相川書房 1997