システムズ・アプローチ
システムズ・アプローチは人や集団の内面だけではなく、環境や周囲との関係性を説明しようとする点においてソーシャルワークの諸理論と親和性があります。システムズ・アプローチは主に1980年代に欧米から導入されたシステム論による家族療法を基盤としながら発展し、近年は人間関係や組織のあり方を見つめ、介入する方法として応用されています。
原因と結果という二項的なあるいは直線的な「ものの見方」をする従来のアプローチに比べて、円環的と言われる「ものの見方」をするシステム論は、これまでの心理療法やカウンセリングそしてソーシャルワークの方法論にその「物事の捉え方」の違いという点で衝撃を与えました。
何か「問題」(心理的な悩みや福祉的な課題)が生じているときに、その人や集団の内面や資質に焦点をあてるのではなく、その集団や人の中で「どのようなことがどのように『問題』として扱われているか」、そして「すでに問題解決に動いている働き(相互作用)」が扱われることになります。クライエントがどのような「枠組み(flame)」でその事象をとらえているか「自分自身」「事象について」「人間関係」「どのような経験」「どう取り組んでいるか」などを読み取っていきます。問題として語られていることの中でのそれぞれの役割や影響など「コミュニケーション」や「事象」のパターンを円環的に観察します。
原因⇄結果の探索ではなく、リダンダンシー(redundancy)と言われる事象やコミュニケーションの連続性(パターン)や力動性(ダイナミック)を理解することになります。
家族などの組織や小集団には問題が発生した時にすでに問題解決に向けて動いている何か(相互作用)があると仮定して、しかし解決されていないということはそれを維持するパターンの繰り返しが行われいる可能性があり、それを維持させている個々による意味づけ(枠組み)や相互作用の連鎖があると考えるのです。そしてその相互作用をつかって問題の解消に当たろうとする働きかけということになります。
個人に対する医学モデルや自我心理学などをベースにしたセラピューティックな心理療法やソーシャルワークを行ってきた人たちには、この「ものの見方」の変更が難しいようです。
治療者あるいはワーカーが持っている「枠組み」や「意味づけ」もこの相互作用へのアセスメントや介入に大きく影響を与えるので介入者自身の「枠組み」が全体にどのように影響しているか俯瞰してみることも重要になります。治療者やワーカーがこのクライエントや集団の枠組みに関心を持ち、観察し、理解するプロセスをジョイニング(joining)と言ったりしています。
このシステムひいては問題に影響を与える介入の原理としてサイバネティックスの認識論(sybernetics)があります。有名なものに「ホメオスタシス(homeostasis)」という家族などの凝集性の高い人間関係においてはこの形態を維持し、逸脱を解消する仕組みが仕込まれているとするものがあります。これらに加えて「システム変化させるためにはシステムの状態維持に反するものも取り込むことがある」とするものなど追加の新しいサイバネティックスの考え方が投入されていたりします。
介入としては、この「枠組み」確認、パターンの確認を行い、なんらかのコミュニケーションや事象の連鎖を変える介入が行われます。
家族療法の流派で有名なMRIのアプローチでは、解決に向かって行われてる行動のなかで、実際には解決に結びついていない行動を制限して、そのパターンの連鎖を止めるというパラドクスというシステム変容の技法が紹介されています。
このようなコミュケーションの特性「パターン」・「意味づけ」・「枠組み」を理解し
その相互作用を円環的質問(circular question)や観察によってシステムをアセスメントする方法の対象は家族から職場や組織や地域活動などミクロからメゾレベルにに広がりを見せています。
<読んでおくべき本>
遊佐安一郎 「家族療法入門ーシステムズアプローチの理論と実際」星話書店 1984
吉川悟「システム論からみた援助組織の協働 組織のメタアセスメント」金剛出版 2009