精神療法のひとつのアプローチとして知られているもので、最近ではうつ病に対するアプローチなどに応用されているようです。また薬物依存など犯罪者更生のプログラムなどで司法の分野でも応用されています。
病因そのものにアプローチする治療の考え方ではなく、クライエントの思考や認知の「歪み」に対して働きかけて、認知と行動の変容を促していくことに特徴があります。認知行動療法では認知理論や情報処理理論などを使ってその人の認知や思考過程にアプローチしていくのです。
クライエント自身が抱えている「問題」のうち問題となっている「思考」や「行動」に焦点をあてているわけですから、例えば「うつ病」や「精神疾患」を根本から治療するという戦略ではありません。クライエントの当面の課題や問題に対処する方法をクライエントが自ら習得するというくらいに考えたほうがういいかもしれません。
「悲しい(あるいは不安)」という感情を手にしているのは、「絶対的に悲しい(不安な)状況」があるからではなく「ある状況」に対する「情報処理(思考)」の結果「悲しい(不安)」という感情を手にしている。
認知行動療法においては、クライエントが認識した事柄が「事実」であるかどうかを最初に問題にすることはありません。実際にクライエントが考え出した(自分の意識の中につくりだした世界)認識に影響を受けて、クライエントの日常の行動や感情は作り出されている、という仮説に基づいて提供される支援的な関わりということになります。うつ病圏の人たちは自身の否定的(ネガティブ)な認知の影響を受けて、社会的に不適切な行動や感情を決めているというふうに考えることになります。
ひとは現実世界をありのままに受け止めているのではなく、その人なりの要素を通して認知し、受け取っているのだということを理解するように促しています。
強いストレスなどによって、この認知に偏りが起きているときに、不安が強くなったり、非適応的な行動を起こしてしまったりすると考えていきます。
認知行動療法ではこの「思考」→「気分」→「行動」の悪循環(スパイラル)を課題にしていくのです。
クライエントに自分の自身の思考や認知のパターンに注目するように勧めます。それからそう考えるように至った訳(根拠や理由)を聞き、その他の考え方の選択肢の可能性をクライエントとの様々な対話法の中から共に見出していく。ノートや思考プロセス票を使ったり、尺度を用いたり治療者によって様々な方法が工夫されている。そこから行動療法的アプローチとして「段階的課題」「スケジュール法」「行動リハーサル」などの手法を取り込んで手に入れる「感情」や「行動」が適応的なものになるように進められていきます。
厚生労働省のホームページにうつ対策として認知行動療法の
治療プログラムが掲載されています。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/01.pdf
認知行動療法は非常に構成・構造化されていることが特徴でプラグラム化されていることに気づきます。精神分析的アプローチのように深層心理を扱うのではなく、常に意識される「思考」を扱うことで、クライエントが自分自身でコントロールすることを可能にしています。しかし自分の「思考過程に気づく」プロセスというのはまた非常に高いインテリジェンスと動機つけが必要に思います。
<読んでおくべき本>
アローン・ベック著 大野裕 翻訳「認知療法-精神療法の新しい発展(認知療法シリーズ)」岩崎学術出版社 1990 Aaron T.Beck" cognitive therapy and emotional disorders" plume,1979
大野裕 著 「認知療法・認知動療法 治療者用マニュアルガイド」星和書店