社会福祉の方法のなかで方法自体が制度・法律に組み込まれるという運命をたどっている点で特筆に値するアプローチとなっています。
ケースマネジメントはアメリカでの精神障害を抱える人々へのコミュニティケアが発祥と言われています。精神障害を抱える人々は精神疾患そのものの医療的な問題だけでなく、住宅、雇用、経済、対人関係、家計管理、介護など複合的な生活課題を抱えていて、さらにその相談をするのにも窓口が幾つも存在する状況の中にありました。
その問題をひとつひとつ調整し、生活環境が安定すれば、かなり重度の精神障害を持つ方でも地域で生活が継続できることがわかってきました。その人が抱えるケアニーズとそのケアを提供する社会資源の組み合わせを当事者と共に考えて提供していく、この手法が有効であるとして広まっていきました。当時のアメリカは多くの精神科病棟を閉じて、精神障害を持つ方たちを地域へ向かわせる政策を取っていましたので、この点でも政策と結びついて誕生・成長していった方法と言えるかもしれません。
日本におけるケアマネジメントは①ケースファインディング→②インテーク→③アセスメント→④プランニング→⑤契約→⑥サービスの実施→⑦モニタリング→⑧終結ないしは再アセスメント。この一連のプロセス・モデルを使って、人が望ましい生活していく上での支援ニードに対して、支援目標や成果を明らかにしながら、必要な社会資源との結びつきを作っていく、そしてその結果を確認する。このプロセスの繰り返しのことを言っています。
肝心なことはニードを的確に評価したうえで、「支援目標とその成果」をはっきりとクライエントに伝えて、「合意形成(契約)」をしっかりと図ることにあります。支援者は、自分のマネジメントの成果が何によってわかるか(支援の結果予想)をはっきりとクライエントに伝えて、合意をとる必要があるということになります。そしてサービスを実施したうえでそのサービスの「成果(アウトカム)」が得られたかどうかをモニタリングで確認します。「成果が得られなかった」場合は、ニーズの把握、支援目標の設定、支援方法の選択、成果の設定の何が上手くいってなかったのかを確認する必要があります。これをクライエントとのパートナーシップのもと行うというのがケアマネジメントの方法です。
「モニタリング」とは状況把握ではなく、実施されたサービスの成果や適切さを確認し「修正」を促す行為ということになります。ロングタームケアにおいては、この「修正」のプロセスが何度も何度も繰り返されることになります。
人の生活課題は多様であり、複数の生活課題を抱えることになります。その複雑さに対応した複合的なサービスをパッケージで提供して、その相互作用的な効果を期待すること、ばらばらなサービスを提供して、場当たり的なことにならないようにサービス相互間の調整をする機能も含まれています。
「効率的」「無駄を省く」という意味においても優れた方法であり、行政的に好まれる手法なのかも知れません。ちなみに「効率的」とは少ない労力で最大の「成果」を生むという意味で、必ずしも、お金がかからないという意味とは違うそうです。(余談です)
<学ぶべきこと>
ケースマネジメント、ケアマネジメントは、組織的、制度的な支援方法とよく結び付きます。ケアマネジメントは個別の支援論(ミクロレベルの実践)だけではなく、むしろ組織や地域を(重点)ターゲットとした支援方法(メゾレベルの実践)であるとする考えもあるようです。ケースマネジメントをしっかり学んでおくことは、「組織つくり」や「仕組み作り」に目を向けることになります。「地域ケア」のなかに「ケアマネジメント」が位置付けられることを理解しておく必要があります。
ケースマネジメントは介護保険や障害者総合支援法など高齢者福祉や障害者福祉領域以外でも、様々な分野で使われている方法です。医療分野でも、診療報酬にも位置づけられた「退院支援」のプロセスはこのケースマネジメントの方法をかなり援用をしていると言ってもいいのではないかと思います。「ケースファイデング」のところでは、どのようなケースを「退院支援」の対象として捉えるのかのスクリーニングシステム、など院内の仕組み作りが問われるところです。「退院支援計画書」はまさに合意形成のプロセスです。正確にアセスメントを行うための多職種連携やカンファレンスの開催、サービスの調整などでは組織やチームをオーガナイズするコミュニケーション能力が必要になります。個々のクライエントの福祉問題解決のために個々のチームを編成することが退院支援のケースマネジメントの大きな部分を占めるということになります。
現在の退院支援の仕組みの中に「モニタリング」が欠落していることは少し気になります。退院支援の質(退院後の生活の質)の担保が図られたがどうか、支援目標をどう設定し、達成されたかどうか、「退院すること」が目標になっていないか「目標設定」→「モニタリング」を退院支援に取り組む工夫が必要かもしれません。
<読んでおくべき本>
「ケースマネジメントの理論と実際」白澤政和 中央法規
「ケースマネジメント入門」デビィット マクスリー著 野中猛ほか訳 中央法規 1994
「高齢者ケアのマネジメント論」小山秀夫 厚生科学研究所 1997