コーチング・スキル Coaching Skill
コーチングとはアメリカで発達したコミュニケーションを使った「人の可能性を引き出し、目的を実現すること」を達成するためのトレーニングの方法です。
コーチングのトレーニング研修は、その手法が体系的に整理されていることが特徴で、とても学びやすくなってます。
コーチングとは何かについて、よく研修の導入で説明されるのが、コーチ(coach)の語源は「馬車」であるということです。顧客を、「顧客が目指す目的地へ運ぶ」ことがコーチの役割ということになります。
コーチングを実践するためのトレーニングとして体系化されていく中でカウンセリングやコンサルテーションの技法がたくさん取り込まれていて、しかも簡潔に言語化され、演習化されているのでこのようなスキルについて身につけ易い方法を提供しています。
しかしスキルだけではなく、コーチとしての振る舞いとして、「クライエントの可能性を信じきること」「クライエントが必要とする答えはクライエントの中にあること」「セッションの持ち主はクライエントである」などコーチ側のマインド・セットがこのコーチングの基盤となることが強調されています。このコーチ側のマインド・セットはコーチングのセッション全般にわたってコーチの態度に影響することなのでとても重要です。
コーチングの場の構成のために、たくさんの労力を使います。「守秘義務」や上述のコーチのマインンド・セットについての説明も欠かさずにクライエントへ行います。クライエントとの信頼関係の形成のために「相手を『認める』」スキル、真の自己実現を理解し、目標を見極めるための『聴く』『質問する』スキル。クライエントの今を確認するための『フィードバック(伝える)』のスキルなど、クライエントが安心・信頼して話せる環境を形成していきます。
コーチングではクライエントの動機が最も重要視されます。コーチングは「何かを達成したい」「より効率的に」「より高いレベルの」「的確に」などクライエントの高い達成動機、あるいは「何かをなしとげたいけれどもできない、なんとかしたい」という悩みをを持つ人に有効な方法です。言い換えれば、クライエントの参加がなければコーチングは成立しないのです。
コーチングのを実施する上で考慮した方がいいことに「ティーチング(教える)」と「コーチング」を区別することがあります。どうしても教えたくなる衝動にかられることがあるわけですが、コーチングでのセッションでは「教える」頻度は下げるべきと考えられています。教えることが重要な場合も有ります。その時は「私はいま『教える』という作業」をしていることとその意味をしっかり把握しておきましょう。
コミュニケーションの基本的姿勢はマイクロ・カウンセリングなどに大変近いもので構成されています。ミラーリング、ペーシング、ゼロポジション、チャンクダウン、チャンクアップ、I(アイ)メッセージなどは家族療法の各技法やNLPなどで学ぶものとほぼ近いものです。
コーチングでは目標設定が重要な項目にあげられています。
①より具体的であるかどうか
②アウトカム(指標)とメジャー(測定)(その目標は何によって達成されたを知ることができるか)
③現実的なことか(達成できる目標かどうか)
④真の目的との関連性(目標を検討していくなかで本来のクライエントの動機(真の希望)から外れていないかどうか)
⑤期限を決める(いつまでに達成するかきめる)
など具体的に取り組んでいきます。
その上で
クライエントの現状を把握し、具体的な方法と過程を考えますそのためには、クライエントのもつ内的、外的な資源(何がその目標達成に役に立つか)を考えたり、目標が達成されたときのイメージを想起して、その過程を振り返ってみたりすることで、成功までに歩んだ過程を明確にし、有効であった方法や役に立った資源を見出していくといったセッションを行います。そして最後にセッション終了後にクライエント起こすべき行動を決めてひとつのセッションを終えます。クライエントが目標達成のために最も必要なことは思考だけでなく有効な「行動」ですから行動レベルのクライエントの意識決定をサポートすることになります。
こうしたセンションの構造は保ちながら、セッションの持ち主はクライエントですから、内容や方向性など、ことあるごとに「この内容でいいですか」「今日はどこまで決めましょうか」「いま不都合を感じていたりしませんか」など状況のコントロールを常にクライエントに渡していきます。そこのとがクラインエントを尊重し、自己決定を支えることになるとされています。
このような体系化された構造と体系化された技法を用いてコーチング・セッションを進めるのですが、この構造や技法が演習とともに使いこなす技法として習得できることがコーチング・スキル・トレーニングの魅力でもあります。
<注意喚起>
コーチとはスポーツの世界で使われてきましたが、近年は成功哲学的にビジネスの世界でも応用されています。「必ず成功できる!」といった眉つばでかつ高額な自己啓発活動とも結びついているようなのでセミナーなどで学ぶ際には、注意が必要です。
<読んでおくべき本>
「メディカル・サポート・コーチング入門」 奥田弘美 日本医療情報センター 2003
「対人援助のためのコーチング」 諏訪茂樹 中央法規 2007
2015年4月24日金曜日
エンパワーメント empowerment
エンワパーメント empowerment
近年、社会福祉や看護など支援の構築場面において頻繁に使われていますが、ひとつの定義にまとまっていないようにも思われます。「クライエントの強みに着目する支援」と表現されることも多いですが、エンパワーメントもしくはエンパワーメント・アプローチはその登場してきた背景をしっかりと理解する必要があるように思えます。
ソーシャルワーク・社会福祉の世界では、ソロモン(Solomon, B)が「黒人のエンパワーメント」という本を書いてこの概念を紹介しています。黒人であること、女性であること、障害者であること、性的マイノリティであること、外国人であること、高齢者であることなどが、社会から否定的評価をされたりや社会的に抑圧された存在となることによって、(当事者にはなにも問題がないのに、このような外的な要因によって)社会的な役割を行ったり、自己実現を図ろうとする時に有効に資源を活用できない状態に陥り、そのため無力感を漂わせてしまっている状態。このような状態にある人に対して、その本来の力や誇りを取り戻していく支援を行うことまたはそのプロセスを「エンパワーメント」と言っているようです。
「ソーシャルワークは、個人と環境と言ってきたけれど、やっぱり個人の問題に焦点を当てすぎるのではないか。個人の内面だけに焦点をあてた支援をするだけでなく、今まで以上に、社会的な不公平に対してもっと目を向け、取り組むべきなのではないか」というこれまでのアプローチに対する批判的な意味も込められいるように思います。
個人レベルでのエンパワーメント・アプローチ
①このアプローチの対象は社会・制度・文化的な状況において、不公平な状況に置かれ、パワーが失われた状態となり。その結果、様々な資源や環境を自身でコントロールすることが困難になっている人といえるでしょう。
②そして、問題を個人の内面にみるのではなく、外在化させ、本来の個人の持っている能力を発揮できるようにしていきます。そのために、ワーカーはリーダーシップをとるのではなく、パートナーシップをとり、「協働関係」をつくります。
③そして、クライエントが本来持っている「力」や彼をとりまく「資源」の「強さ」を強調していきます。ワーカーはクライエントと結んだ信頼関係のなかで、彼が本来持っている「能力」を協働で確認して、社会資源、個人資源の確認とその活用方法を協働で考え、必要であれば、ワーカーは新たな情報を提供し、クライエントに与えられ、無力な状況に落とし込んでいた継続的な社会的な抑圧環境に対して批判的な思考が持てるように対話していきます。(ここが大切です!)
個人レベルの他に、集団レベル・組織レベル・社会(政治)レベルなど4つのレベルでのエンパワーメント・アプローチがコックス(Cox)らによって紹介されています。
エンパワーメントを考えるときに捉えておきたいことは、なぜパワーレス<Powerless>な状況、あるいは力を奪われている<Dispowered>状況が生じているかということです。
黒人であること、女性であること、障害者であること、ある疾患を抱えているということ。病気を抱えた人であることが問題と考えるのではなく、取り巻く社会環境に課題を置いていく。弱められているが故に、ことの善悪を問わず状況を他者によってコントロールされている状態が、当事者をパワーレスな状態に陥れていると考える必要があるからです。
<学ぶべきこと>
エンパワーメントとは、本来「権限移譲」のことを指すようです。専門家や為政者、役所、会社などで権限をもつものが、物事を決定し、進めていく権限をより当事者に近いひとに渡していくこと、その能力を信頼し、責任も含めて渡していく。そんなようなことを指しているのですが、支援する場面にもこの考えは、置き換えることができるのではないでしょうか。支援する側がこのことができたときに、エンパワーメント・アプローチが始まるのだろうと考えます。
エンパワーメントが流行ってきている背景には、「市民社会」の強調、「自由主義」から「コミュニタリアリズム」などの市民の時代の到来があると思います。このなかで、留意すべきことは、行きすぎた自己責任の強調などと結びついてしまわないように心がけたいということです。
<読んでおくべき本>
バーバラ・ソロモン(Solomon, B)「黒人のエンパワーメント」BlackEmpowerment:Social Work in Oppressed Communities Columbia Univ. Press 1976
コックス&パーソンズ(Cox,E.O&Persons,R,J)「高齢者エンパワーメントの基礎」小松源助訳 相川書房 1997
近年、社会福祉や看護など支援の構築場面において頻繁に使われていますが、ひとつの定義にまとまっていないようにも思われます。「クライエントの強みに着目する支援」と表現されることも多いですが、エンパワーメントもしくはエンパワーメント・アプローチはその登場してきた背景をしっかりと理解する必要があるように思えます。
ソーシャルワーク・社会福祉の世界では、ソロモン(Solomon, B)が「黒人のエンパワーメント」という本を書いてこの概念を紹介しています。黒人であること、女性であること、障害者であること、性的マイノリティであること、外国人であること、高齢者であることなどが、社会から否定的評価をされたりや社会的に抑圧された存在となることによって、(当事者にはなにも問題がないのに、このような外的な要因によって)社会的な役割を行ったり、自己実現を図ろうとする時に有効に資源を活用できない状態に陥り、そのため無力感を漂わせてしまっている状態。このような状態にある人に対して、その本来の力や誇りを取り戻していく支援を行うことまたはそのプロセスを「エンパワーメント」と言っているようです。
「ソーシャルワークは、個人と環境と言ってきたけれど、やっぱり個人の問題に焦点を当てすぎるのではないか。個人の内面だけに焦点をあてた支援をするだけでなく、今まで以上に、社会的な不公平に対してもっと目を向け、取り組むべきなのではないか」というこれまでのアプローチに対する批判的な意味も込められいるように思います。
個人レベルでのエンパワーメント・アプローチ
①このアプローチの対象は社会・制度・文化的な状況において、不公平な状況に置かれ、パワーが失われた状態となり。その結果、様々な資源や環境を自身でコントロールすることが困難になっている人といえるでしょう。
②そして、問題を個人の内面にみるのではなく、外在化させ、本来の個人の持っている能力を発揮できるようにしていきます。そのために、ワーカーはリーダーシップをとるのではなく、パートナーシップをとり、「協働関係」をつくります。
③そして、クライエントが本来持っている「力」や彼をとりまく「資源」の「強さ」を強調していきます。ワーカーはクライエントと結んだ信頼関係のなかで、彼が本来持っている「能力」を協働で確認して、社会資源、個人資源の確認とその活用方法を協働で考え、必要であれば、ワーカーは新たな情報を提供し、クライエントに与えられ、無力な状況に落とし込んでいた継続的な社会的な抑圧環境に対して批判的な思考が持てるように対話していきます。(ここが大切です!)
個人レベルの他に、集団レベル・組織レベル・社会(政治)レベルなど4つのレベルでのエンパワーメント・アプローチがコックス(Cox)らによって紹介されています。
エンパワーメントを考えるときに捉えておきたいことは、なぜパワーレス<Powerless>な状況、あるいは力を奪われている<Dispowered>状況が生じているかということです。
黒人であること、女性であること、障害者であること、ある疾患を抱えているということ。病気を抱えた人であることが問題と考えるのではなく、取り巻く社会環境に課題を置いていく。弱められているが故に、ことの善悪を問わず状況を他者によってコントロールされている状態が、当事者をパワーレスな状態に陥れていると考える必要があるからです。
<学ぶべきこと>
エンパワーメントとは、本来「権限移譲」のことを指すようです。専門家や為政者、役所、会社などで権限をもつものが、物事を決定し、進めていく権限をより当事者に近いひとに渡していくこと、その能力を信頼し、責任も含めて渡していく。そんなようなことを指しているのですが、支援する場面にもこの考えは、置き換えることができるのではないでしょうか。支援する側がこのことができたときに、エンパワーメント・アプローチが始まるのだろうと考えます。
エンパワーメントが流行ってきている背景には、「市民社会」の強調、「自由主義」から「コミュニタリアリズム」などの市民の時代の到来があると思います。このなかで、留意すべきことは、行きすぎた自己責任の強調などと結びついてしまわないように心がけたいということです。
<読んでおくべき本>
バーバラ・ソロモン(Solomon, B)「黒人のエンパワーメント」BlackEmpowerment:Social Work in Oppressed Communities Columbia Univ. Press 1976
コックス&パーソンズ(Cox,E.O&Persons,R,J)「高齢者エンパワーメントの基礎」小松源助訳 相川書房 1997
2015年4月11日土曜日
マイクロカウンセリング Microcouseling
マイクロカウンセリング
マイクロカウンセリングとは、ひとつのカウンセリング理論を説明するものではなくて、カウンセリングの基本とされる要素をひとつひとつ技法として取り出して名称をつけて、可視化して学びやすくしたコミュニケーショントレーニングの体系と考えてよいでしょう。「マイクロ」とは細分化とか最小単位のという意味ですが、採用するカウンセリングや心理療法、ソーシャルワークの理論や流派にとらわれずに、カウンセリングの基礎を学ぶことができる優れた方法として定評があります。
アレン・E・アイビィが様々な流派の心理療法やカウンセリングのモデリングを行って技法を体系化したものが始まりで日本でも日本マイクロカウンセリング学会が研修会を開催しています。
<学ぶべきこと>
カウンセリングの技法を階層的に捉えた「マイクロ技法の階層表」は、非常に示唆に富んでいるものです。「文化的要素やウエルネス」をベースに「関わり行動」「開かれた質問・閉ざされた質問」「クライエント観察技法」「はげまし・いいかえ・要約」「感情の反映」「5段階の面接技法」「対決」「焦点のあてかた」「意味の反映」「積極技法」「技法の統合」「個人的スタイルと理論の決定」というカウンセリングの学びの階層が体系化され、ピラミッドのように表現されています。そのひとつひとつが演習として学べるようになっています。カウンセリングを理論だけでなく、技法として使えるようにしていく体験して、使ってみる演習を通して身につけていけるように整えたところはとても優れています。
http://www.microcounseling.com/pdf/hierarchy.pdf
<読んでおくべき本>
「マイクロカウンセリングー”学ぶ-使う-教える”技法の統合:その理論と実際」アレン・E
・アイビィ著 福原真知子 訳 川島書店
2015年4月10日金曜日
障害の受容 ステージ理論
障害の受容
「障害の受容」が支援の目標になるかというのは議論の分かれるところでもあります。「障害の受容ができない」ということが問題として語られる文脈に注意する必要もあります。リハビリテーションの訓練が進まない要因のひとつに障害の受容が挙げられていた時代がありました。支援者が行おうとする援助がうまくいかない場面で当事者の障害受容が語られているとしたらそれは、「支援者側の問題」であったりします。
それでも障害の受容について考えることは、当事者の出来事に対する受け止め、家族や社会生活の状況、これまでの生活背景など当事者のことをより深く考えること(気づくこと)あるいは彼を取り巻く社会について考えることにつながる場面でもあります。また当事者だけでなく、家族、親、兄弟、介護者、援助職、教育者など様々な立場で「障害をどう受け止めるか(てきたか)」について考えることも重要なテーマとなります。
<ステージ理論>
ステージ理論といえば、臨死患者が死を受け止めるまでに、どのような心理的プロセスをたどるかということを考えた米国の精神科医 E・キューブラ・ロスのモデルが有名です。
「否認」・「怒り」・「取引」・「抑うつ」・「受容」の5つのステージからなるこの整理は「死」だけではなく「障害」についても同じような反応が見られるとして援用されてきました。
障害の分野ではナンシー・コーンのステージ・モデルがあります。「ショック」・「回復への期待」・「悲哀」・「防衛」・「適用」の5段階を提唱しています。
ナンシー・コーンは中途障害者の心理的反応について「うつ症状」「せん妄」「痛み・疼痛」などの阻害因子をあげて説明しています。多くの段階理論は「受容」というより「適応」や「順応」などの悲哀の仕事(モーニングワーク)の理論を参考に構成されているようです。
<学ぶべきこと>
これらのステージ理論は、多くの人はからなずこういう経過をたどるという統計学的に検証された理論ではありません。たくさん援用されている割にエビデンスとして用いるには根拠は薄いとも言われます。しかし、こうしたステージ・モデルを理解しておくことによって、「否認」、「怒り」、「抑うつ」など今、当事者が示している反応に対してひとつの解釈を与えてくれていることがわかります。そして順番はこの通りか、繰り返しくるものかどうかわからないが、そのひとつのステージのその反応にずっと止まり続けるばかりではない(ひとは変化していく)ということは臨床的にはとても助けになる理論だと思います。また、この分野では、専門職による支援だけでなく、同じ障害を持つ人たちが支え合う(Peer Support )も有効な支援になることが知られるようになりました。
障害の受容は、障害を抱えた個人の努力の問題として語られてきた傾向があります。価値の転換などもちろん個人レベルの課題はあるのですが、支援する側の課題であったり、大きくは社会が障害をどう受容するのかという課題にもたどり着きます。
<読んでおくべき本>
「リハビリテーションを考えるー障害者の全人間的復権ー」上田敏 青木書店 1983
「障害学への招待」石川准ほか 明石書店 1999
「障害受容ー意味論からの問い」南雲直二 荘道社 1998
「障害の受容」が支援の目標になるかというのは議論の分かれるところでもあります。「障害の受容ができない」ということが問題として語られる文脈に注意する必要もあります。リハビリテーションの訓練が進まない要因のひとつに障害の受容が挙げられていた時代がありました。支援者が行おうとする援助がうまくいかない場面で当事者の障害受容が語られているとしたらそれは、「支援者側の問題」であったりします。
それでも障害の受容について考えることは、当事者の出来事に対する受け止め、家族や社会生活の状況、これまでの生活背景など当事者のことをより深く考えること(気づくこと)あるいは彼を取り巻く社会について考えることにつながる場面でもあります。また当事者だけでなく、家族、親、兄弟、介護者、援助職、教育者など様々な立場で「障害をどう受け止めるか(てきたか)」について考えることも重要なテーマとなります。
<ステージ理論>
ステージ理論といえば、臨死患者が死を受け止めるまでに、どのような心理的プロセスをたどるかということを考えた米国の精神科医 E・キューブラ・ロスのモデルが有名です。
「否認」・「怒り」・「取引」・「抑うつ」・「受容」の5つのステージからなるこの整理は「死」だけではなく「障害」についても同じような反応が見られるとして援用されてきました。
障害の分野ではナンシー・コーンのステージ・モデルがあります。「ショック」・「回復への期待」・「悲哀」・「防衛」・「適用」の5段階を提唱しています。
ナンシー・コーンは中途障害者の心理的反応について「うつ症状」「せん妄」「痛み・疼痛」などの阻害因子をあげて説明しています。多くの段階理論は「受容」というより「適応」や「順応」などの悲哀の仕事(モーニングワーク)の理論を参考に構成されているようです。
<学ぶべきこと>
これらのステージ理論は、多くの人はからなずこういう経過をたどるという統計学的に検証された理論ではありません。たくさん援用されている割にエビデンスとして用いるには根拠は薄いとも言われます。しかし、こうしたステージ・モデルを理解しておくことによって、「否認」、「怒り」、「抑うつ」など今、当事者が示している反応に対してひとつの解釈を与えてくれていることがわかります。そして順番はこの通りか、繰り返しくるものかどうかわからないが、そのひとつのステージのその反応にずっと止まり続けるばかりではない(ひとは変化していく)ということは臨床的にはとても助けになる理論だと思います。また、この分野では、専門職による支援だけでなく、同じ障害を持つ人たちが支え合う(Peer Support )も有効な支援になることが知られるようになりました。
障害の受容は、障害を抱えた個人の努力の問題として語られてきた傾向があります。価値の転換などもちろん個人レベルの課題はあるのですが、支援する側の課題であったり、大きくは社会が障害をどう受容するのかという課題にもたどり着きます。
<読んでおくべき本>
「リハビリテーションを考えるー障害者の全人間的復権ー」上田敏 青木書店 1983
「障害学への招待」石川准ほか 明石書店 1999
「障害受容ー意味論からの問い」南雲直二 荘道社 1998
危機介入 Crisis Intervention
危機介入 Crisis Intervention
「危機」とは状況を示す言葉で、その人が持っている過去の経験や知識、慣習によるこれまでの対処方法では、もはや対応できない問題状況を指しています。「危機」についても諸説あるので「危機理論」も調べてみましょう。一般的に「危機」と言われるものにどんなものがあるでしょうか。突然の病気や怪我、自殺(企図)、失業、近親者との死別などの状況的・偶発的な危機状況もあれば、離乳や入学時の不安からの不登校、思春期の性に対する嫌悪など人の発達のなかで出会う危機状況もあるでしょう。「危機介入」とはこうした危機状況に対して、当事者の危機に伴う感情の表出をサポートし、受け止め、危機状況への適切な対処ができるように支援していく短期的な支援プロセスとされています。人はこうした危機を乗り切ることによってより成熟した自我状態(成長)が促されるとも言われます。
しかし、危機介入は、その人が抱える心理的な課題の原因と突き止め、洞察したり、問題の完全な解決、そして人格の成長を目標にするアプローチではなく、あくまで今ある危機を具体的な方法で乗り切り、均衡状態に戻ることを目標にした介入方法であることを忘れてはなりません。
「危機」状況のなかでは、当事者の問題解決能力は低められていることは予測しなければなりませんし、そうした状況のかなでは、冷静に洞察的なカウンセリングを行うよりも、指示的(ディレクティブ)に、具体的に対応した方が現実的な対処が容易に手繰り寄せることができます。こうした状況の中では当事者が持っている社会的なサポートシステムがどのような状況であるかを把握することが有効になります。危機の中に現れた具体的に対応、対処しなければならない心理的、社会的な問題を一緒に対処してくれる担い手がどのように整備されているかを把握するようにします。そしてクライエント・当事者が、自分で対処できるように道筋を示したり、ポイントを見極めたりしながら、再びコントロールを当事者に戻していきます。当事者自身が整備された社会的サポートなどを活用しながら自分自身で対処できるところまで支援します。これが「危機介入」のおおまかな考え方です。
<学ぶべきポイント>
アセスメントの段階で①危機の具体的な内容を把握します(何が起こっているか、出来事は何か)②クライエント・当事者はそのことをどのように捉えているかを確認します。(クライエントの理解の把握)③クライエント・当事者のサポート状況・体制を把握します。④当事者あるいは家族の問題解決能力の様子はどうかを確認します。(今とこれまでの対処能力の把握)⑤身体状況や自殺企図など今後の身体的・精神的リスクの客観的予測と把握をします。
そして介入の計画を立案します。アセスメントに基づいて、本人の意思や能力を尊重しつつ、周囲のサポート体制の強さを把握しながら、具体的なサポートの活用内容とその手続きなどはひとつひとつ具体的に示しながら、優先順位をつけながら、ひとつひとつクライエントに並走しながら、できるかぎりクライエント自身でできるように、できないところは「代行」をしながら、クライエントと共に解決を進めていきます。危機の前の均衡状態を取り戻せたことを確認できたら介入は終結となります。
<読んでおくべき本>
「危機介入の理論と実際ー医療・看護・福祉のために」ドナ・C・アギュララ 小松源助 荒川義子訳 川島書店機介入 Crisis Intervention
「危機」とは状況を示す言葉で、その人が持っている過去の経験や知識、慣習によるこれまでの対処方法では、もはや対応できない問題状況を指しています。「危機」についても諸説あるので「危機理論」も調べてみましょう。一般的に「危機」と言われるものにどんなものがあるでしょうか。突然の病気や怪我、自殺(企図)、失業、近親者との死別などの状況的・偶発的な危機状況もあれば、離乳や入学時の不安からの不登校、思春期の性に対する嫌悪など人の発達のなかで出会う危機状況もあるでしょう。「危機介入」とはこうした危機状況に対して、当事者の危機に伴う感情の表出をサポートし、受け止め、危機状況への適切な対処ができるように支援していく短期的な支援プロセスとされています。人はこうした危機を乗り切ることによってより成熟した自我状態(成長)が促されるとも言われます。
しかし、危機介入は、その人が抱える心理的な課題の原因と突き止め、洞察したり、問題の完全な解決、そして人格の成長を目標にするアプローチではなく、あくまで今ある危機を具体的な方法で乗り切り、均衡状態に戻ることを目標にした介入方法であることを忘れてはなりません。
「危機」状況のなかでは、当事者の問題解決能力は低められていることは予測しなければなりませんし、そうした状況のかなでは、冷静に洞察的なカウンセリングを行うよりも、指示的(ディレクティブ)に、具体的に対応した方が現実的な対処が容易に手繰り寄せることができます。こうした状況の中では当事者が持っている社会的なサポートシステムがどのような状況であるかを把握することが有効になります。危機の中に現れた具体的に対応、対処しなければならない心理的、社会的な問題を一緒に対処してくれる担い手がどのように整備されているかを把握するようにします。そしてクライエント・当事者が、自分で対処できるように道筋を示したり、ポイントを見極めたりしながら、再びコントロールを当事者に戻していきます。当事者自身が整備された社会的サポートなどを活用しながら自分自身で対処できるところまで支援します。これが「危機介入」のおおまかな考え方です。
<学ぶべきポイント>
アセスメントの段階で①危機の具体的な内容を把握します(何が起こっているか、出来事は何か)②クライエント・当事者はそのことをどのように捉えているかを確認します。(クライエントの理解の把握)③クライエント・当事者のサポート状況・体制を把握します。④当事者あるいは家族の問題解決能力の様子はどうかを確認します。(今とこれまでの対処能力の把握)⑤身体状況や自殺企図など今後の身体的・精神的リスクの客観的予測と把握をします。
そして介入の計画を立案します。アセスメントに基づいて、本人の意思や能力を尊重しつつ、周囲のサポート体制の強さを把握しながら、具体的なサポートの活用内容とその手続きなどはひとつひとつ具体的に示しながら、優先順位をつけながら、ひとつひとつクライエントに並走しながら、できるかぎりクライエント自身でできるように、できないところは「代行」をしながら、クライエントと共に解決を進めていきます。危機の前の均衡状態を取り戻せたことを確認できたら介入は終結となります。
<読んでおくべき本>
「危機介入の理論と実際ー医療・看護・福祉のために」ドナ・C・アギュララ 小松源助 荒川義子訳 川島書店機介入 Crisis Intervention
交流分析 Transactional Analysis
交流分析は、アメリカの精神科医師のバーン(Berne,E)によって開発されたコミュケーションの理論とこれに基づいた治療の体系です。日本でも、個別あるいは集団療法として発展して心理療法などに活用されているほか、自己啓発的な活用もされていて狭義の治療的な場面だけではなく一般にも広まっている理論でもあります。Transactional Analysisの略称でTAと呼ばれることもあります。「構造分析」「交流分析(パターン分析)(ゲーム分析)」「脚本分析」の3つ(あるいは4つ)を軸にして展開されます。
<構造分析>
自我心理学の理論を援用して個人の心理メカニズム(自我状態)を分析します。自我状態を、親(P)<=Parent>、大人(A)<=Adult>、子供(C)<=Child>の状態に分類し記号化を行います。よく交流分析の自我状態をフロイドの理論でいうところの自我をA、イドをC、超自我をPとして紹介されていることもありますが、2つの理論は同じではないということは理解しておきましょう。交流分析の自我状態の構造分析の優れている点は、自我状態について分かりやすく説明され、可視化できることにあります。
さらに親(P)は規律的・批判的なPである(CP)<=Critical Parent>と養育的・寛容的・保護的Pである(NP)<=Nurturing Parent>に2分類され、子供(C)は自由・奔放なCである(FC)<=Free Childの略>と順応的なCである(AC)<=Adapted Child>に2分類して捉える方法もあります。これらの自我状態を治療者とのやりとりやエゴグラムといった自我状態の分析テストを用いて可視化して、識別することによって、様々な気づきを得たり自身の不調和な部分を理解したりできるようになります。
<交流分析>
①パターン分析
自我状態の構造分析を行った後に、2者間あるいは複数の間での自我状態の交流(コミュニケーション)を分析します。コミュニケーションの方向を刺激(S)と反応(R)で捉えたときにAとA(Aの自我状態から相手のAの自我状態に発信された刺激に対して、Aの自我状態で受け止め、A自我状態の反応を相手のAへ返す)、P(S)→Cに対してC(R)→Pなどのパターンを「平行的(相補的)交流」、A(S)→A(R)、P(S)→Cに対してA(R)→Aといったコミュニケーションパターンを「交差的交流」と表現しています。また、一見A→Aで行なわれているコミュニケーションであっても、内面心情的にはP→CとC→Pの組み合わせであったりする二重の構造を持つコミュニケーションを「裏面交流」と呼んでいます。
②ゲーム分析
ゲームのように繰り返し行われる非生産的な(あまり好ましくない)結末をもらたすだけの、交流様式をパターン化して捉えてみようとする考えです。バーンは著書の中で様々なゲームのパターンを指摘し、面白い名前をつけて紹介しています。
Why Don't You, Yes But(なぜあなたはしないんですか、ええ、でも。。。のゲーム)
I'm only Trying to Help You(私はただあなたをたすけようとしているだけなのですゲーム)
<脚本分析>
小さい頃からの人生を送るなかで、成立している自身への刷り込みや信念は、これまで分析してきた自我状態の交流パターンを繰り返し繰り返し行ってきたなかで、自分で書き込んだもので「人生脚本」と呼ぶことにしました。ただその脚本は自覚されていないので、きずかない限り書き換えられることはありません。その見えない人生脚本が自分の人生の選択(立場やコミュニケーションの取り方)に大きく影響を与えています。自分の人生脚本に、特に非建設的な脚本に気づき、修正を図ることを勧めています。脚本の成立原因を紐解く基本概念に「ストローク(愛情や承認の要求)」「時間の構造化」「人生態度(基本的構え)」「値引き(ディスカウント)」などがあるので調べてみましょう。
<学ぶべきこと>
交流分析の自我状態の「構造分析」は、人の自我状態を可視化してみるという大胆な着眼点で、自身の心理的な内面の反応のくせのようなものに対して気づきをもたらしてくれるというツールであります。また「パターン分析」や「ゲーム分析」などのコミュニケーション分析では、コミュニケーションには一点の流れがあって、ある特定の人間関係やコミュニティの中では、これもくせのように行われるパターン化されたやりとりがあって、そのなかにはあまり好ましくない結果をもららすコミュニケーションが繰り返し行われいる状態が多く存在すること、それに気づき修正することで、非生産的なパターンから抜け出す手がかりを掴むことができます。「人生脚本」では私たちが人生に向かう態度は幼い頃からの身近な人たちとのコミュニケーションの中で築かれ、「書き込まれてきた」自覚されていない脚本によって方向づけられているなということとそのことへの具体的な気づきということが大切なポイントですが、その書き換えや再決断に進むのはより治療的な関わりということになりそうです。
心理療法の技法として発展した理論ですが、福祉や看護の援助者としては、援助者自身の自己覚知やコミュニケーションのパターンを知るトレーニングとしての活用をお勧めします。
<読んでおくべき本>
「人生ゲーム入門 人間関係の心理学」エリック・バーン著 南博訳 河出書房新社
「TA TODAY 最新交流分析入門」イアン・スチュアート ヴァン・ジョインズ著
深沢美智子 監訳 実務教育出版
<構造分析>
自我心理学の理論を援用して個人の心理メカニズム(自我状態)を分析します。自我状態を、親(P)<=Parent>、大人(A)<=Adult>、子供(C)<=Child>の状態に分類し記号化を行います。よく交流分析の自我状態をフロイドの理論でいうところの自我をA、イドをC、超自我をPとして紹介されていることもありますが、2つの理論は同じではないということは理解しておきましょう。交流分析の自我状態の構造分析の優れている点は、自我状態について分かりやすく説明され、可視化できることにあります。
さらに親(P)は規律的・批判的なPである(CP)<=Critical Parent>と養育的・寛容的・保護的Pである(NP)<=Nurturing Parent>に2分類され、子供(C)は自由・奔放なCである(FC)<=Free Childの略>と順応的なCである(AC)<=Adapted Child>に2分類して捉える方法もあります。これらの自我状態を治療者とのやりとりやエゴグラムといった自我状態の分析テストを用いて可視化して、識別することによって、様々な気づきを得たり自身の不調和な部分を理解したりできるようになります。
<交流分析>
①パターン分析
自我状態の構造分析を行った後に、2者間あるいは複数の間での自我状態の交流(コミュニケーション)を分析します。コミュニケーションの方向を刺激(S)と反応(R)で捉えたときにAとA(Aの自我状態から相手のAの自我状態に発信された刺激に対して、Aの自我状態で受け止め、A自我状態の反応を相手のAへ返す)、P(S)→Cに対してC(R)→Pなどのパターンを「平行的(相補的)交流」、A(S)→A(R)、P(S)→Cに対してA(R)→Aといったコミュニケーションパターンを「交差的交流」と表現しています。また、一見A→Aで行なわれているコミュニケーションであっても、内面心情的にはP→CとC→Pの組み合わせであったりする二重の構造を持つコミュニケーションを「裏面交流」と呼んでいます。
②ゲーム分析
ゲームのように繰り返し行われる非生産的な(あまり好ましくない)結末をもらたすだけの、交流様式をパターン化して捉えてみようとする考えです。バーンは著書の中で様々なゲームのパターンを指摘し、面白い名前をつけて紹介しています。
Why Don't You, Yes But(なぜあなたはしないんですか、ええ、でも。。。のゲーム)
I'm only Trying to Help You(私はただあなたをたすけようとしているだけなのですゲーム)
<脚本分析>
小さい頃からの人生を送るなかで、成立している自身への刷り込みや信念は、これまで分析してきた自我状態の交流パターンを繰り返し繰り返し行ってきたなかで、自分で書き込んだもので「人生脚本」と呼ぶことにしました。ただその脚本は自覚されていないので、きずかない限り書き換えられることはありません。その見えない人生脚本が自分の人生の選択(立場やコミュニケーションの取り方)に大きく影響を与えています。自分の人生脚本に、特に非建設的な脚本に気づき、修正を図ることを勧めています。脚本の成立原因を紐解く基本概念に「ストローク(愛情や承認の要求)」「時間の構造化」「人生態度(基本的構え)」「値引き(ディスカウント)」などがあるので調べてみましょう。
<学ぶべきこと>
交流分析の自我状態の「構造分析」は、人の自我状態を可視化してみるという大胆な着眼点で、自身の心理的な内面の反応のくせのようなものに対して気づきをもたらしてくれるというツールであります。また「パターン分析」や「ゲーム分析」などのコミュニケーション分析では、コミュニケーションには一点の流れがあって、ある特定の人間関係やコミュニティの中では、これもくせのように行われるパターン化されたやりとりがあって、そのなかにはあまり好ましくない結果をもららすコミュニケーションが繰り返し行われいる状態が多く存在すること、それに気づき修正することで、非生産的なパターンから抜け出す手がかりを掴むことができます。「人生脚本」では私たちが人生に向かう態度は幼い頃からの身近な人たちとのコミュニケーションの中で築かれ、「書き込まれてきた」自覚されていない脚本によって方向づけられているなということとそのことへの具体的な気づきということが大切なポイントですが、その書き換えや再決断に進むのはより治療的な関わりということになりそうです。
心理療法の技法として発展した理論ですが、福祉や看護の援助者としては、援助者自身の自己覚知やコミュニケーションのパターンを知るトレーニングとしての活用をお勧めします。
<読んでおくべき本>
「人生ゲーム入門 人間関係の心理学」エリック・バーン著 南博訳 河出書房新社
「TA TODAY 最新交流分析入門」イアン・スチュアート ヴァン・ジョインズ著
深沢美智子 監訳 実務教育出版
2015年4月1日水曜日
問題解決モデル Problem-Solving Model
問題解決モデル Problem-Solving Model
筆者の専門分野であるソーシャルワークの援助理論のひとつで、日本では個別相談援助と表記されるソーシャル・ケースワークの方法論理論のなかでも代表的なものになります。
パールマン(Perlman,HH)が開発した方法で「人の人生は問題解決の連続である」という仮説にコミットした支援方法です。
仮に、社会福祉の大きな援助のゴールを「人が社会的に建設的で、個人的に充実した生活を送れるようにすること(あるいはそうなるように援助すること)」としてみても良いけれども、それは少し幻想的ではないかとパールマンは問いかけています。実際に人の生活というものは進行していくもので、新たな問題に直面し、また問題を解決していく連続した過程であり、社会福祉の支援にあってはこのことを正しく認識して援助しなければ本質的で効果的な援助(クライエントがみずからの力で人生を送るようになること)にはならないと考えました。パールマンのケースワークではこの問題解決の「過程」を重視したのです。
パールマンは「問題」とは「その人にとってのある時期に関心の中心となっている困難のことであり、援助を求めている人が感じ、そのことに心奪われ、体験しているもの」であるとして、問題に悩んでいる人は自分の問題を主観的に読み取り、また自分自身の問題の解決者とならなければならないとしています(だって連続するのだから)。ワーカー(働きかける人)は問題に悩んでいる人をとおして、その人とともに、その人の「力」を生かしてはじめて問題を取り扱うことができる存在と認識すべきであると主張しています。
ここで問題の解決のために働く「力」とはクライエントの「動機付け」「感情」「知覚」「認知」「順応」の力であり、その力を統合するように機能しているのが「自我」(自我心理学の項参照)であるとしています。パールマンの理論はあくまで社会福祉の方法ですが、自我心理学の深い理解と応用を含んでいる方法です。問題解決モデルにはこのほかにもジョン・デューイの反省的思考過程分析の分析と構造化という考え方やエリクソンのライフサイクル・モデル、役割理論などが関連性の深い理論として登場しています。
心理社会的モデルも同じように自我心理学を基礎にしていますが、診断概念において<問題>と<クライエント自身の能力とリソース>にコミットが高いところが問題解決モデルの特徴といえます。(心理社会的モデルに代表される精神分析的アプローチは「時間がかかる割に効果がイマイチ」とか「費用がかかりすぎる」など支援の効率としての問題を常に指摘されていたアプローチでしたから焦点を定めて効率的・効果的なアプローチを推奨する必要もあったと推測します。)
<学ぶべきこと>
問題解決モデルでは、<問題>をもっている<人>がある<場所>(相談機関や社会的な支援を行っている機関)などにその問題を抱えて援助を求めてくる。その人はソーシャルワーカーなどの援助を受けることになるが、援助する側は、その人が自分で問題を解決する能力(competence)を使って自分自身で解決を図ったり、自分自身で自分の問題解決に必要な資源を補おうとするような活動は展開されるような<過程>となるように援助することを勧めています。
ゴール(援助目標)に関する考え方としても、パールマンは限られた時間のなかで、効率良くクライエントとワーカーのエネルギーを動員するためにには「短期の部分的ゴール」(partialized goal)を設定することを勧めています。「成功感」を得やすいことと次のゴールを手繰り寄せる方法や希望を手にすることができるからだと言っています。(パールマンはインテークや関わりの初期段階でドロップアウトしてしまい支援から遠ざかってしまう人々の研究をしていましたのでそのことと関係があるかもしれません。1967年にパールマンは「ケースワークは死んだ」というショッキングなタイトルの論文を発表しながらも、実はケースワークが「有効」であるためにはという課題を考え続けた方でもあります。)
以下にパールマン自身がクライエント自身が問題解決に向かって力を発揮していくために重要としてしている項目を列挙しておきます。
①その人自身が<問題>を明確に捉えていること
②その人の<問題>に対する主観的な体験をはっきりとさせる。「この問題状況のなかのこの人」(this person in problem situation)
③問題の原因と結果に他者がどのような重要性と影響力を持っているか検討する<重要他者の探索>。問題に関連する人(person in relation to his problem)の諸側面に関する吟味。
④解決可能な手段と様式を探索し、検討を加える
⑤手段の選択にあたっては<問題>と<人>の関連をよく見る<関係の探索>
⑥その方法が妥当であったかどうかの検証を行う
端的に言うならば「取り組むべき問題の特定」と「援助を求めている人の能力と動機付けの評価」「クライエントが活用する資源と機会の探索」「その方法の吟味」そして「実行」というプロセスを重視した方法であるといえます。まずクライエントがどのくらい望んでいるか(動機付け)そしてその対処のためにどんな能力をもっているか(いないか)どんな能力を高めていけるかに焦点をあてます。(これをワーカービリティと呼んでいます)そしてクライエント自身の環境やワーカーが提供できる支援やサービスにはどのようなものや手段があるか、そしてそれを活用した場合の影響や結果に関する認識に焦点を当てていくことから始まるのです。
<読んでおくべき本>
「ソーシャル・ケースワークにおける問題解決モデル」ヘレン・ハリス・パールマン『ソーシャル・ケースワークの理論7つのアプローチとその比較』ロバートW.ロバーツ編/久保紘章訳 川島書房
「ソーシャル ケースワーク」パールマン,H.H 著 松本武子訳 全国社会福祉協議会出版
筆者の専門分野であるソーシャルワークの援助理論のひとつで、日本では個別相談援助と表記されるソーシャル・ケースワークの方法論理論のなかでも代表的なものになります。
パールマン(Perlman,HH)が開発した方法で「人の人生は問題解決の連続である」という仮説にコミットした支援方法です。
仮に、社会福祉の大きな援助のゴールを「人が社会的に建設的で、個人的に充実した生活を送れるようにすること(あるいはそうなるように援助すること)」としてみても良いけれども、それは少し幻想的ではないかとパールマンは問いかけています。実際に人の生活というものは進行していくもので、新たな問題に直面し、また問題を解決していく連続した過程であり、社会福祉の支援にあってはこのことを正しく認識して援助しなければ本質的で効果的な援助(クライエントがみずからの力で人生を送るようになること)にはならないと考えました。パールマンのケースワークではこの問題解決の「過程」を重視したのです。
パールマンは「問題」とは「その人にとってのある時期に関心の中心となっている困難のことであり、援助を求めている人が感じ、そのことに心奪われ、体験しているもの」であるとして、問題に悩んでいる人は自分の問題を主観的に読み取り、また自分自身の問題の解決者とならなければならないとしています(だって連続するのだから)。ワーカー(働きかける人)は問題に悩んでいる人をとおして、その人とともに、その人の「力」を生かしてはじめて問題を取り扱うことができる存在と認識すべきであると主張しています。
ここで問題の解決のために働く「力」とはクライエントの「動機付け」「感情」「知覚」「認知」「順応」の力であり、その力を統合するように機能しているのが「自我」(自我心理学の項参照)であるとしています。パールマンの理論はあくまで社会福祉の方法ですが、自我心理学の深い理解と応用を含んでいる方法です。問題解決モデルにはこのほかにもジョン・デューイの反省的思考過程分析の分析と構造化という考え方やエリクソンのライフサイクル・モデル、役割理論などが関連性の深い理論として登場しています。
心理社会的モデルも同じように自我心理学を基礎にしていますが、診断概念において<問題>と<クライエント自身の能力とリソース>にコミットが高いところが問題解決モデルの特徴といえます。(心理社会的モデルに代表される精神分析的アプローチは「時間がかかる割に効果がイマイチ」とか「費用がかかりすぎる」など支援の効率としての問題を常に指摘されていたアプローチでしたから焦点を定めて効率的・効果的なアプローチを推奨する必要もあったと推測します。)
<学ぶべきこと>
問題解決モデルでは、<問題>をもっている<人>がある<場所>(相談機関や社会的な支援を行っている機関)などにその問題を抱えて援助を求めてくる。その人はソーシャルワーカーなどの援助を受けることになるが、援助する側は、その人が自分で問題を解決する能力(competence)を使って自分自身で解決を図ったり、自分自身で自分の問題解決に必要な資源を補おうとするような活動は展開されるような<過程>となるように援助することを勧めています。
ゴール(援助目標)に関する考え方としても、パールマンは限られた時間のなかで、効率良くクライエントとワーカーのエネルギーを動員するためにには「短期の部分的ゴール」(partialized goal)を設定することを勧めています。「成功感」を得やすいことと次のゴールを手繰り寄せる方法や希望を手にすることができるからだと言っています。(パールマンはインテークや関わりの初期段階でドロップアウトしてしまい支援から遠ざかってしまう人々の研究をしていましたのでそのことと関係があるかもしれません。1967年にパールマンは「ケースワークは死んだ」というショッキングなタイトルの論文を発表しながらも、実はケースワークが「有効」であるためにはという課題を考え続けた方でもあります。)
以下にパールマン自身がクライエント自身が問題解決に向かって力を発揮していくために重要としてしている項目を列挙しておきます。
①その人自身が<問題>を明確に捉えていること
②その人の<問題>に対する主観的な体験をはっきりとさせる。「この問題状況のなかのこの人」(this person in problem situation)
③問題の原因と結果に他者がどのような重要性と影響力を持っているか検討する<重要他者の探索>。問題に関連する人(person in relation to his problem)の諸側面に関する吟味。
④解決可能な手段と様式を探索し、検討を加える
⑤手段の選択にあたっては<問題>と<人>の関連をよく見る<関係の探索>
⑥その方法が妥当であったかどうかの検証を行う
端的に言うならば「取り組むべき問題の特定」と「援助を求めている人の能力と動機付けの評価」「クライエントが活用する資源と機会の探索」「その方法の吟味」そして「実行」というプロセスを重視した方法であるといえます。まずクライエントがどのくらい望んでいるか(動機付け)そしてその対処のためにどんな能力をもっているか(いないか)どんな能力を高めていけるかに焦点をあてます。(これをワーカービリティと呼んでいます)そしてクライエント自身の環境やワーカーが提供できる支援やサービスにはどのようなものや手段があるか、そしてそれを活用した場合の影響や結果に関する認識に焦点を当てていくことから始まるのです。
<読んでおくべき本>
「ソーシャル・ケースワークにおける問題解決モデル」ヘレン・ハリス・パールマン『ソーシャル・ケースワークの理論7つのアプローチとその比較』ロバートW.ロバーツ編/久保紘章訳 川島書房
「ソーシャル ケースワーク」パールマン,H.H 著 松本武子訳 全国社会福祉協議会出版
クライエント中心理論 Client-Centered Theory
クライエント中心理論 Client-Centered Theory
ロジャーズ(Rogers,C)の提唱する自己理論に基づく(自己不一致を自己一致に運ぶことを目標とした治療的)面接方法をいいます。日本では、カウンセリングを学ぶ際のイロハのイのような扱いを受け紹介されてきた理論でもあります。
「アメリカではすでに心理療法の理論リストから外されて久しい」(諸富 1997)、「もう古い」という声もあります。広く取りあげられただけに功と罪の両面があるように思います。しかし、この理論を抜きに日本のカウンセリングは語れないように思います。
傾聴や非指示的(ノンデレクティブ)な姿勢などは日本人によほどフィットした理論だったのかもしれません。「人が真に<自分自身>として生きていくことTo be That Self Which One Truly Is」を目指したロージャスの理論は日本人の琴線に触れるものがあるのかもしれません。
「人はみずからの内側に、自分を理解するための大きな資源を持っていること、生きていくことに困難さを抱えて悩んでいても、それを開発していく促進的な心理学的な環境が整えば、そのひとはその力を発揮して、解決に向かってみずからの方法で進んでいくことが期待できる。」
おそらくこのようなまとめ方がロジャーズの理論の理解の仕方の一つになると思います。
<学ぶべきこと>
ロジャーズと言えば、非指示的療法(non-directive)が有名だったりしますが、ロジャーズ自身は後半ではこの概念はあまり用いなくなっているようです。ロジャーズの方法のことを通っぽく「ノンデレ」と表現される方も多いです。形式的・技術的(表面的な面接技術)なことだけが伝承されることを本人自身も危惧していたようで、その理論や思想的なことに向き合うように工夫し、方向性も微妙に変化しています。
人が自らの課題解決のために自分自身の大きな資源に気づき、開発し、活用していく「促進的な心理学的な環境」を提供するためにカウンセラー側の存在の意味・方法・技術・あり方を探求し続けた方だと思います。
ロジャーズがあげたカウンセラーの態度的な条件などについては深く理解しておきましょう。
「受容」あるいは「無条件の肯定的配慮」
「共感的理解」
「純粋性」あるいは「一致」
「感情の反射 reflection of feeling 」
などがこれにあたります。
こうしたカウンセラー側の態度がなぜ、クライエントに効果的なプラスの心理的な変化をもたらすのかについてのエビデンスを含んだ説明はあまり広がっていないことは残念なことです。どんなクライエントに効果的で、この方法が活きないクライエントがあるのかといった適用の問題も整理されていません。「診断」という概念を「必要なし」としたこの方法の限界や問題点を指摘する声もあります。(国分 1980)
カウンセリングやサイコセラピーがクライエントと治療者の織りなす関係性(相互作用)のなかにその成否の鍵があることを見出したことは大きなことと言えます。
<読んでおくべき本>
友田不二夫先生の「カウンセリングの技術」(誠信書房)や伊藤博先生の「カウンセリング」(誠信書房)など日本のカウンセリングの黎明期に出版され広く読まれた本はいずれもロジャース派とされる先生方であります。
「ハーバート・ブライアンの事例」はロジャーズの方法を理解するために読むべき事例として挙げている方が多いです。カウンセリングやサイコセラピーにおいて初めて逐語記録を公的に刊行したものと言われています。
「ロジャーズ クライエント中心療法」佐治守夫・飯長喜一郎 有斐閣
「カール・ロジャーズ入門 自分が自分になるということ」コスモスライブラリー ,1997
ロジャーズ(Rogers,C)の提唱する自己理論に基づく(自己不一致を自己一致に運ぶことを目標とした治療的)面接方法をいいます。日本では、カウンセリングを学ぶ際のイロハのイのような扱いを受け紹介されてきた理論でもあります。
「アメリカではすでに心理療法の理論リストから外されて久しい」(諸富 1997)、「もう古い」という声もあります。広く取りあげられただけに功と罪の両面があるように思います。しかし、この理論を抜きに日本のカウンセリングは語れないように思います。
傾聴や非指示的(ノンデレクティブ)な姿勢などは日本人によほどフィットした理論だったのかもしれません。「人が真に<自分自身>として生きていくことTo be That Self Which One Truly Is」を目指したロージャスの理論は日本人の琴線に触れるものがあるのかもしれません。
「人はみずからの内側に、自分を理解するための大きな資源を持っていること、生きていくことに困難さを抱えて悩んでいても、それを開発していく促進的な心理学的な環境が整えば、そのひとはその力を発揮して、解決に向かってみずからの方法で進んでいくことが期待できる。」
おそらくこのようなまとめ方がロジャーズの理論の理解の仕方の一つになると思います。
<学ぶべきこと>
ロジャーズと言えば、非指示的療法(non-directive)が有名だったりしますが、ロジャーズ自身は後半ではこの概念はあまり用いなくなっているようです。ロジャーズの方法のことを通っぽく「ノンデレ」と表現される方も多いです。形式的・技術的(表面的な面接技術)なことだけが伝承されることを本人自身も危惧していたようで、その理論や思想的なことに向き合うように工夫し、方向性も微妙に変化しています。
人が自らの課題解決のために自分自身の大きな資源に気づき、開発し、活用していく「促進的な心理学的な環境」を提供するためにカウンセラー側の存在の意味・方法・技術・あり方を探求し続けた方だと思います。
ロジャーズがあげたカウンセラーの態度的な条件などについては深く理解しておきましょう。
「受容」あるいは「無条件の肯定的配慮」
「共感的理解」
「純粋性」あるいは「一致」
「感情の反射 reflection of feeling 」
などがこれにあたります。
こうしたカウンセラー側の態度がなぜ、クライエントに効果的なプラスの心理的な変化をもたらすのかについてのエビデンスを含んだ説明はあまり広がっていないことは残念なことです。どんなクライエントに効果的で、この方法が活きないクライエントがあるのかといった適用の問題も整理されていません。「診断」という概念を「必要なし」としたこの方法の限界や問題点を指摘する声もあります。(国分 1980)
カウンセリングやサイコセラピーがクライエントと治療者の織りなす関係性(相互作用)のなかにその成否の鍵があることを見出したことは大きなことと言えます。
<読んでおくべき本>
友田不二夫先生の「カウンセリングの技術」(誠信書房)や伊藤博先生の「カウンセリング」(誠信書房)など日本のカウンセリングの黎明期に出版され広く読まれた本はいずれもロジャース派とされる先生方であります。
「ハーバート・ブライアンの事例」はロジャーズの方法を理解するために読むべき事例として挙げている方が多いです。カウンセリングやサイコセラピーにおいて初めて逐語記録を公的に刊行したものと言われています。
「ロジャーズ クライエント中心療法」佐治守夫・飯長喜一郎 有斐閣
「カール・ロジャーズ入門 自分が自分になるということ」コスモスライブラリー ,1997
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