2015年3月27日金曜日

ソーシャルサポート social support

 ソーシャルサポートの研究は「人と人の結びつき」が人々の健康とどのような関連があるかという関心から始まったようです。コッブ(Cobb 1976)はソーシャルサポートを情報と考えました。ひとによる行為から「情報」を受けることによって、その人が「私は助けられた」「愛された」「承認されている」などと感じるときに、それをソーシャルサポートと呼ぶことを規定してみることを始めました。そしてそれは様々なストレスを退け、社会的な欲求を満たしてくれるものではないかと考えたのです。
 ソーシャルサポートの研究は様々な形で発展し、「受容されるサポート」とは何か。サポートにはどんな種類や機能があるかなどについて研究が進められてきました。研究者によって、ソーシャルサポートの定義も様々なものになっています。ソーシャルサポートの研究者である浦(1996)は、その著書で「人と人が支え合うことの諸相」と総称するにとどめその定義付けの多様さを紹介しています。

<学ぶべきこと>

 ソーシャルサポート論では、ソーシャルサポートの効果や結果についての研究も盛んに行われていますが、支える人と支えられる人の関係性について学ぶことが重要な項目になっています。支援を受けるということはその人は「弱々しい人」というイメージが付きまといます。「持っているひと」が「持っていないひと」を支援するという支援の方向性は、その人が自分自身の人生を自分でコントロールしながら生きて行くということにおいては矛盾する部分があります。「受容されたサポート」や「ネガティブ・サポート」という概念はサポートは単に提供されれば良いというものではなく、サポートが誰かから、どんな方法で支援されたかによってその質や効果は大きく異なるということを示しています。カプラン(Kaplan 1974)の研究では未亡人への支援について、専門家による構造化された支援のみでなく、他の未亡人からの支援がとても役に立ったことを報告しています。

 サポートの種類については、「道具的サポート」と「情緒的サポート」の2種類あるいはこれに加えて「情報的サポート」の3種類が挙げられています。
「道具的サポート」とは
「情緒的サポート」とは
「情報的サポート」とは

 『人は「支えてほしい人」に「支えてほしい方法で」支えられたときに「支えられた」と受け止める』と言う考えかたを採用しています。支える側の都合だけで走るのではなく、支えられる側の「受け止め」を思考します。そして立ち返って支える側の「状況」も捉えてゆき、そしてその相互作用である「支え合い」を考えることになります。

<読んでおくべき本>
「支え合う人と人ーソーシャルサポートの社会心理学」浦充博 サイエンス社(1996)

「地域ぐるみの精神衛生」カプラン著 近藤喬一訳 星和書店 (1979)




2015年3月26日木曜日

自我心理学 Ego Psychology


自我心理学とは、人に起こる心理的な現象や心理機能を、自我との関係において説明し理解しようとする心理学の領域です。アンナ・フロイト(A.Freud 1985-1982)が行った防衛的自我の葛藤や防衛機制に関する取り組みが自我心理学の始まりとされています。精神分析の考えを基礎にして自我心理学は発展をしました。自我同一性の理論を基に、人の社会的発達段階と心の問題を考えたエリクソン(E.H.Erikson 1902-1994)の研究も有名です。

<学ぶべきこと>
 アンナは、児童心理の臨床で功績を上げた人です。ひとは危機や不安やなことを経験した時に、人はその不安に対して防衛機制を働かせて再適応しようとするという仮説をもとに「抑圧」「退行」「投影」「否認」「合理化」「知性化」「逃避」「昇華」という防衛機制の分類と説明(定義)を行いました。これによりひとが経験する「現実」と「内的な欲求」を調整したり統合したりするこころの働きを説明しています。これを「自我防衛機制 Ego Defence System 」と言います。
 このような防衛機制の働きを理解しておくことで、ひとが不安にさらされたときのこころの働きについて考えるひとつの思考の枠組みを手に入れることができます。

  エリクソンは、比較的、個の要素の強かった精神分析や自我心理学を発展させて、社会的な存在としての個人を見つけていきます。ひとは防衛機制などの自我の機能を使って社会や環境に自己を適応させている「社会的存在」である、それが人間ではないかと主張したのです。「ライフサイクル(一生涯の発達漸成図式)」を示して「乳児期」「幼児期前期」「幼児期後期」「児童期」「青年期」「成人期」「壮年期」」「老人期」の8段階に分けて考えている。エリクソンはこのそれぞれの時期の社会的条件のなかで自己同一性、自分のアイデンティティを確立することが課題となってくる(社会的存在としての自己同一性の確立)としている。この確立に失敗してアイデンティティが拡散すると社会への帰属意識が持ちにくくなり、危機が生まれるとしています。

<読んでおくべき本>
「自我と防衛」A・フロイト著 外林大作訳 誠信書房 (1985)
「ライフサイクル、その完結」E.H.エリクソン・J.M.エリクソン著 村瀬孝雄・近藤邦夫訳 みすず書房 (2003)